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タグ: 理研

弁護士の吉村です。

本日も時事的な労働問題について弁護士として解説いたします。


小保方晴子
((c)日刊ゲンダイ)

本日は,STAP細胞の論文不正問題について,理化学研究所(理研)が小保方氏側が求めていた再調査を行わないとの結論を出したことによる,今後の紛争の行方について説明したいと思います。
 

ポイント(これだけ読めばOK)① 小保方さんの研究不正問題については,画像の修正や別の画像の貼り付けなどの不正と評価される客観的事実があり,小保方さん側でそれを覆す証拠を提出できなかったので,理研が研究不正の認定を確定させたこと自体は法的には問題はない。研究不正の認定確定それ自体については,小保方さん側は訴訟などにより争うことも出来ない。
② この問題は,今後は,理研による懲戒処分の可否・是非というステージで議論がなされる。理研としては,懲戒解雇・諭旨退職も含む厳しい処分も可能であるが,小保方さん側が訴訟等により争ってくる可能性が高い。
③ ただ,1年更新の契約社員である小保方さんは,どのみち来年の期間満了による契約終了が確実であり,懲戒解雇等を争っても来年の契約期間までの地位しか保全できないのが原則。その意味で,小保方さんが懲戒解雇を訴訟等で争うメリットは実はあまりない。
④ 退職した後であれば,懲戒処分も受けることはない。小保方さんは,懲戒処分を受ける前に,退職届を出して,処分から逃げることも戦略的にはありえる。

 

研究不正認定それ自体は訴訟で争えない

STAP細胞の論文を巡り、理研の調査委員会が改ざんとねつ造に当たる不正行為を小保方さんが行ったと認定したのに対し、小保方さんは調査のやり直しを求める不服申し立てを行い、調査委員会が再調査するかどうか審査していました。小保方さん側は各種資料を提出しましたが,理研は,5月7日,追加の資料でも不正の認定を覆す新たな証拠は示されなかったなどとして再調査の必要はないとする結論を出しました。

この結論に対しては,小保方さん側は訴訟などの対抗策をとることは出来ないでしょう。

なぜなら,理研が行ったのは,不正研究の「認定」という事実上の行為に過ぎず,「処分」という法的行為ではないため,その無効などを求めて争うことは原則的に出来ないからです。また,理研の不正研究の認定をもって,名誉毀損の不法行為であると争うことは不可能ではありませんが,客観的に画像の修正・入れ替えの事実がある以上,実際に裁判所に認容されることは非常に難しいといえ,現実的ではありません。

 

小保方さん側の代理人弁護士は,理研の結論は「到底承服できるものではない」と述べつつも,「懲戒処分が出た場合、処分の取り消しを求める裁判を起こすことも視野に対応を検討する」と述べています。このことは,懲戒「処分」が出ていない現時点では,裁判で争う余地が乏しいことを意味しています。

 

今後の主戦場は,懲戒委員会の場

 

今後の流れ

 

不正認定の確定を受け,今後,理研は,懲戒委員会を設置し,小保方さんの処分を検討することになります。

 

研究不正あり(確定)

↓ 

懲戒手続(就業規則50条~)

懲戒委員会開催(就業規則54条)

小保方氏への弁解手続

懲戒処分の決定

↓ 小保方氏が不服ある場合

再審査の請求(就業規則55条)

↓ 再審査却下

懲戒処分の確定

↓ 懲戒処分を争う場合

懲戒処分無効確認の訴訟提起

 

小保方さんの弁解

 

この懲戒委員会において,小保方さんには反論の機会が与えられるのが通常で,小保方さんは,その場で,弁解や情状酌量などを求めていくことになります。

具体的には,

研究不正にあたらないこと,仮にあたるとしても「重大」な不正ではないこと

情状酌量の余地があること

(例)

・極めて多忙ななかで差し替えを忘れたミスでありやむを得ないこと

(注:但し,4月の記者会見では,小保方さんは特に急ぎという事情はなかったと述べていましたので,信憑性はありません。)

・不正をして真実の研究成果を偽ろうとした「悪意」はないこと

(注:「悪意」とは研究不正の客観的事実及び評価を知っていたことと定義されますので,この意味での悪意は否定し難い。それ以上の「悪意」がないとしても,研究機関としての秩序を著しく乱したことは否定できない。従って,弁解としては意味がない。)

 

懲戒解雇・諭旨解雇も可能

不正研究は重く処分される

不正研究(捏造)は,実務上,懲戒解雇等の処分も例外ではなく,非常に重く処分されるのが実情です。研究機関における不正研究は,その機関への信頼を著しく損ねる行為であり,かつ,科学への冒涜でもあります。重い処分がなされるのもやむを得ないでしょう。

不正の程度によっては懲戒解雇が無効となるリスクがある


ただし,裁判例上,懲戒解雇等が有効になっているケースは,研究ノートを改竄し,再現性のない研究成果を発表した場合など,不正研究の中でも重い事案になっています。今回,理研が研究不正の認定をしたのは,研究ノートやSTAP細胞実験の再現性は対象となっていませんでした(但し,現在,理研にて調査中です。)。つまり,研究不正の中にも程度の問題があり,その中でも重い程度の不正については懲戒解雇等の重い処分が選択されていますが,そこまで重い程度に達しない場合は,懲戒解雇等の処分が「重すぎるので無効」と判断されるリスクがあるのです。

この程度が重いか否かは,不正の論文の中における位置付け,重要性,不正の程度,同種事案での理研における処分実例などを総合考慮して決められることになります。

今回の小保方さんの研究不正は,科学論文の性質を無視したものであり,許される内容ではないことは明らかです。但し,STAP細胞の再現性に直接関わる部分ではありませんでしたので,その点が裁判になって争われた場合,「そこまで重い研究不正ではなかった。ゆえに,懲戒解雇は重すぎるので無効」と判断されるリスクは残ります。

STAP細胞の再現性について不正が認められれば懲戒解雇は確実


他方で,現在も調査注のSTAP細胞の再現性の問題については,小保方さんにて非常に杜撰な研究ノートしか残していなかったことが明らかになっており,研究ノートなしで再現性のない成果を発表し不正を行ったと別途認定される可能性もあります。つまり,この調査を待って,再現性についての不正を認定すれば,ほぼ間違いなく懲戒解雇などの重い処分も有効となると思われます。

小保方さんは契約社員なので争うメリットはない!?

懲戒処分が出されるのは,おそらく6月頃と思われますが,それに対し,小保方さんは処分無効確認の訴訟を提起することが可能です。

しかし,小保方さんは,1年ごとに更新される任期付きの職員ですので,おそらく来年の任期満了時に契約期間は更新されることはないと強く予想されます。理研は,きちっと契約更新を管理している場合,来年度の更新拒否(雇い止め)は有効になる可能性が非常に高い。つまり,小保方さんはどのみち理研に勤められるのは来年の契約期間までに限られます。理研に定年まで勤められるのであれば別ですが,来年までしか勤められないのに,裁判までして,理研の処分を争うメリットが果たしてあるのか疑問があります。裁判は,早くても結論が出るまでは1年以上はかかるでしょうから,懲戒処分を争っているうちに,理研との雇用契約は終了してしまう可能性が高いのです。

それならば,他の研究機関から誘われているうちに,さっさと理研に見切りをつけて転職するということも合理的な選択肢となりえるのです。

 

退職届の“出し逃げ”も戦略の一つ

懲戒処分は,従業員との雇用契約が存在していることが前提となりますので,退職した従業員に対して懲戒処分を行うことは原則として出来ません。

懲戒処分が出される前に,他の研究機関から誘われたからといって理研にさっさと退職届を出せば,理研との雇用契約は終了し,それ以後,懲戒処分を受けることもありません。

つまり,退職届を出して,逃げることも可能なのです。

このまま理研に残ることは法的に難しいですし,不名誉な懲戒処分を受ける前に,新天地を求める,という戦略も合理的な選択肢としてあるでしょう。

 

小保方さんの代理人は5月9日、報道陣に対し「研究生活を続けるため、あらゆる可能性を探っている。理研の対応次第では、訴訟提起や、自ら理研を辞めて他の研究機関に移ることも可能性の一つ」と述べたとのことですが,その背景は上記のような事情であると推測されます。

【参考記事】
・ 懲戒解雇への対応方法
・ 退職届を出した後,懲戒解雇ができるか


【ご相談等】
・ 解雇について弁護士へのご相談
・ 会社側で労働審判について弁護士へのご相談


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弁護士の吉村です。

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本日も労働問題に関し弁護士として解説させていただきます。

前回に引き続き,巷で話題の小保方さんの改ざん・捏造問題についてです。

「STAP細胞」論文について,本年4月1日,理研より改ざん及び捏造の研究不正の単独犯として断罪された小保方さん。謝罪は一切せずに,直ちに弁護士を雇い,「驚きと憤りの気持ちでいっぱいです」と怒りをあらわにし,研究不正判定については,不服申立をすると宣言しました。

しかし,ここにきて一転,小保方さんは代理人を通じて「世間をお騒がせし、共同著者に迷惑をかけ、若い研究者として至らなかった点はおわびしたい」と話し「今後も理化学研究所で研究を続けたい」という意向を示していると報道されました。

一切謝罪をせず怒りを爆発させていた小保方さん。理研に戻っても誰も援助者はおらず四面楚歌は目に見えています。本気なのでしょうか?その背後にある戦略とは?

 

ポイント(これだけ読めばOK)① 小保方さんの謝罪,職務継続の表明は,今後の法廷闘争を有利に進める為の戦略にすぎない。
② 本当の
狙いは,懲戒解雇処分を回避し,研究者としての立場を維持しながら,最終的には他への転職にある。
③ 本当に重要な争点はSTAP細胞の再現性。理研と小保方さんお本当の闘いはこれから。 

 

懲戒解雇を回避する弁護戦略は?

まず,一般に懲戒解雇されそうな労働者がとる戦略は,

①懲戒解雇の原因がないことを主張する

②反省の謝罪の意思を示し情状酌量を得る

③職務継続の意思を示す

ことが基本となります。これについて以下説明します。 

①懲戒解雇原因について

懲戒解雇は,そもそも原因がなければされることはありません。いわば刑法で禁止されている行為をした事実がなければ無罪となるのと同じです。

理研が定める懲戒解雇原因は次のとおりです。

就業規則第52条(諭旨退職及び懲戒解雇)

研究の提案、実行、見直し及び研究結果を報告する場合における不正行為(捏造、改ざん及び盗用)が認定されたとき。

 

科学研究上の不正行為の防止等に関する規程

第2条 この規程において「研究者等」とは、研究所の研究活動に従事する者をいう。

2 この規程において「研究不正」とは、研究者等が研究活動を行う場合における次の各号に掲げる行為をいう。ただし、悪意のない間違い及び意見の相違は含まないものとする。

(1)捏造 データや研究結果を作り上げ、これを記録または報告すること。

(2)改ざん 研究資料、試料、機器、過程に操作を加え、データや研究結果の変更や省略により、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること。

(3)盗用 他人の考え、作業内容、研究結果や文章を、適切な引用表記をせずに使用すること。

 

このように,小保方さんの場合,「研究不正」があることが懲戒解雇の原因となりますので,これを「研究不正」に該当しないと争うことが戦略の第一歩です。

実際にも小保方さんは4月8日に不服申立を行ったと報道されています。  

②情状酌量について

また,懲戒解雇の原因があっても,情状酌量の余地がある場合は,懲戒解雇はされません。殺人犯であっても情状酌量の余地がある場合には死刑を免れるのと同じで,懲戒解雇という極刑も情状酌量の余地がある場合は回避されます。

小保方さんは,4月1日の時点では,一切謝罪もせずに憤慨していました。この点について,私はブログで「裁判官の心証を害する態度だ。」と指摘していましたところです。すると,小保方さんもまずいことに気付いたのか,一転,「世間をお騒がせし、共同著者に迷惑をかけ、若い研究者として至らなかった点はおわびしたい」などと謝罪の意向を発表するようになりました。労働問題に詳しい弁護士に助言を受けることができたのか,又は,小保方さん自身が懲戒解雇の危機にある自覚が遅ればせながらでたのでしょう。普通の人ならば悪いことをしてしまったという意識があるのであれば,最初から謝罪の意思を示しますが,小保方さんのような後出しの謝罪はまず戦略的なものと考えてよいのではないでしょうか。 

③職務継続の意思を示す

小保方さんは,今回の捏造騒動の間,体調不良を理由に,理化学研究所へ出勤しておらず,いわば雲隠れしていると報道されています。
今までちやほやしてくれていた理研からは単独犯と断罪され,共同著者もさっさと謝罪及び論文撤回の意思が表明されており,小保方さんは,人間不信に陥っているのかもしれません(まあ,それだけの過ちがあったのですが・・)。コピペや捏造,改ざんの論文を書く研究者として烙印を押されていますので,同僚の研究者も誰も小保方さんに近づかないでしょう。このまま理研にいても孤立し,まともな研究生活は送れないことは目に見えています。にもかかわらず,小保方さんは「理研で研究を続けたい」などと発表しています。一体何を考えているんだ,と思う人がいてもおかしくありません。

私の見解では,これも小保方さん側の戦略でしょう。

小保方さんの雲隠れ状態は,有給休暇を消化して行われていると推測されますが,有給がなくなると,理研へ出勤しないことは単なる欠勤の継続ないし仕事をする意思が喪失していると後々裁判で認定されかねません。そこで,こういう場合は,「職務継続の意思」を表明するのがセオリーとなっており,これを行うことで意味も無く欠勤を継続している,働く気がない,などという使用者側の批判を回避することができます。

今回の小保方さんの「理研で続けたい」宣言もこの趣旨であると考えて間違いないでしょう。普通の神経の持ち主ならば,理研で研究は続けることは難しいのではないでしょうか。

 

おわりに

研究不正の判断や懲戒解雇処分が確定すれば,小保方さんの研究者としての人生は終わるといっても過言ではないでしょう。研究者としての生死をかけた闘いに,弁護士を4人も雇ったというのもあながち大袈裟ではないでしょう。

捏造や改ざんが表に出ていますが,最大の争点は,「STAP細胞」論文の再現性でしょう。理研は,今後1年をかけて研究チームに検証をさせると発表しています。STAP細胞の存在にかかわるデータに捏造があり,再現性がないことが明らかになった場合は確実に懲戒解雇は確定するでしょう。小保方さんの本当の闘いは,4月1日の理研報告の先にあるのです。

 

【関連リンク】
・ 懲戒解雇とは
・ 懲戒解雇への対応方法
・ 解雇で弁護士に相談したい場合なら


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