労働問題.COM|弁護士による労働問題(労働審判,労働組合)の解説 

解雇,残業代,派遣,非正規社員,労働審判,労働組合,訴訟,仮処分などの労働問題について経験豊富な弁護士が分かりやすい解説をしています。

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タグ: 労働問題

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弁護士の吉村です。
 

最近は快調なペースでブログの更新をしております。

さて,今回も労働問題に関する判例について弁護士として解説させて頂きます。

今回は労働時間に関する最新の最高裁判例について。

またもや最近の労働審判で頻出の残業代請求事件についてです。労働審判に代理人弁護士として関与する場合,最近極めて多い事件類型です。

 

  ポイント(これだけ読めば十分!)  
① 会社側(使用者側)にて労働者の労働時間の把握し,残業がある場合は残業代を払わなければならないのが原則。

② 例外的に,例えば外回りの営業社員のように,労働者が何時まで働いたのかを会社で把握できない場合,一定時間働いたことと「みなす」制度が事業場外労働みなし制。

③ ただ,あくまでも例外的な制度なので,その適用要件は厳格に解釈される。要件の1つである「労働時間を算定し難い」という要件は,例えば外回りの営業社員であっても,携帯電話等によって随時指示を受けながら仕事をしているような場合,否定される。

④ 今回の最高裁の事案も,国内旅行の派遣添乗員のケースだが,詳細な旅行日程が組まれていて基本的には変更できないこと,日報,携帯電話の貸与などの事情からすると,「労働時間を算定し難い」とは言えないと判定された


 判 旨 

「本件添乗業務は,ツアーの旅行日程に従い,ツアー参加者に対する案内や必要な手続の代行などといったサービスを提供するものであるところ,ツアーの旅行日程は,本件会社とツアー参加者との間の契約内容としてその日時や目的地等を明らかにして定められており,その旅行日程につき,添乗員は,変更補償金の支払など契約上の問題が生じ得る変更が起こらないように,また,それには至らない場合でも変更が必要最小限のものとなるように旅程の管理等を行うことが求められている。そうすると,本件添乗業務は,旅行日程が上記のとおりその日時や目的地等を明らかにして定められることによって,業務の内容があらかじめ具体的に確定されており,添乗員が自ら決定できる事項の範囲及びその決定に係る選択の幅は限られているものということができる。
 また,ツアーの開始前には,本件会社は,添乗員に対し,本件会社とツアー参加者との間の契約内容等を記載したパンフレットや最終日程表及びこれに沿った手配状況を示したアイテナリーにより具体的な目的地及びその場所において行うべき観光等の内容や手順等を示すとともに,添乗員用のマニュアルにより具体的な業務の内容を示し,これらに従った業務を行うことを命じている。
 そして,ツアーの実施中においても,本件会社は,添乗員に対し,携帯電話を所持して常時電源を入れておき,ツアー参加者との間で契約上の問題やクレームが生じ得る旅行日程の変更が必要となる場合には,本件会社に報告して指示を受けることを求めている。
 さらに,ツアーの終了後においては,本件会社は,添乗員に対し,前記のとおり旅程の管理等の状況を具体的に把握することができる添乗日報によって,業務の遂行の状況等の詳細かつ正確な報告を求めているところ,その報告の内容については,ツアー参加者のアンケートを参照することや関係者に問合せをすることによってその正確性を確認することができるものになっている。
 これらによれば,本件添乗業務について,本件会社は,添乗員との間で,あらかじめ定められた旅行日程に沿った旅程の管理等の業務を行うべきことを具体的に指示した上で,予定された旅行日程に
途中で相応の変更を要する事態が生じた場合にはその時点で個別の指示をするものとされ,旅行日程の終了後は内容の正確性を確認し得る添乗日報によって業務の遂行の状況等につき詳細な報告を受けるものとされているということができる。
 以上のような業務の性質,内容やその遂行の態様,状況等,本件会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法,内容やその実施の態様,状況等に鑑みると,本件添乗業務については,これに従事する添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く,労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないと解するのが相当である。」 


事業場外みなし制についての詳細な解説は当事務所公式HPをご参照ください。

・ 事業場外みなし労働時間制とは?(外部リンク)
・ 事業場外みなし制のチェックポイント(外部リンク)

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異常行動の継続,セキュリティ規程違反を理由とした普通解雇を有効とした事例

アイティフォー事件
東京地判平成24.7.10 WEB労政時報12.9.18
事案の概要
Y社は「金融機関・自治体向けシステム」の設計・開発等を目的とする株式会社
【経緯】
昭62.4.1 X(男性)期間の定めない雇用契約 当初はシステムエンジニアとして勤務
平元.4.1 総合職→一般職 降格
平3.4.1 一般職→総合職 昇格
平14.4.1 SEとしての能力不足等を理由に総合主管1級→3級へ降格
平18.12.12 Xの長時間離席し業務懈怠を理由に懲戒処分(総合職→一般職へ降格)
平21.6.30 普通解雇

【解雇理由】
①長時間離席し,職務に専念しなかった。
②特定の従業員に対する異常行動が職場の環境を乱した
③セキュリティソフトを無断で無効にする等情報管理規定違反

【訴訟提起】
地位確認,賃金支払,違法解雇の慰謝料請求を求めた。 
裁判所の判断
【解雇の合理的理由について】
解雇理由①について
Xは平成18年12月12日に長時間の離席等を理由として懲戒処分を受けた後も,他の社員よりも離席時間が長い状態が継続しており,上司からの注意にもかかわらず,根本的な改善には至らなかったと認定した。

※離席の事実は,入退室を記録するカードリーダーの履歴から認定

解雇理由②について

Xは,上司からの注意や,複数回にわたる調査にもかかわらず,同僚の女性社員Aからつきまとわれているとの強固な思い込みが解消されず,席替えや配置換えが行われた後も,客観的に見て異常ともいえる行動を長期間継続していたことが認められ,このことが他の社員の就労意欲や士気にも影響を与えていたと認定した。

※Xの異常行動とは,Aをうちわで扇ぐ,Aが立ち上がると席を立って窓側へ移動する,事務室に出入りする際に顔を背けて歩く,Aに書類を渡す際,投げるように渡す,などが認定されている。

※Xの異常行動は,度重なるメールによる注意,複数の同僚社員からのヒアリング記録等の客観的記録から認定されている。

解雇理由③について

(1) ウィルスバスターを故意に停止した。
(2) CAT(システム管理ソフト)を故意に停止した。
これらの点からセキュリティ規程違反があると認定した。

※ ログ履歴等のデータを分析した資料を証拠として認定している。

※ XがPCに業務と関連があるとはいい難いソフトウェアをインストールし,PC内に保存しておく必要があるとは思えないイントラネット内のデータや,自己のホームページ用と思われる多数の画像データ等を保存していたこと,自己のホームページ用と思われる画像データを私用のメールアドレスに送信したほか,給与明細やメールのデータも度々転送していたこと等の事実を認めるものの,それについての注意指導がなされた形跡がないこと,頻度や程度が不明であること,私用メールアドレスへの転送は2年で45回程度であること,を理由に職務専念義務違反とは評価できないと判示している。

【解雇の社会的相当性について】

上記諸事情に加え,
・ 以前にも長時間の離席を理由とした懲戒を受けていること(それにもかかわらず,前記のような問題点が改まらなかったこと)

・ 当裁判所においても,Xが自己の行動を正当化する態度は変わらず,第三者の指摘に沿って自己の問題点を振り返るという対応は今後も望めないと思われること

から,本件解雇は客観的に合理的な理由があり,社会的にみて相当なものであり,有効であると判断した。
コメント(実務上の参考事項)
(1) 異常行動をとる社員への不通解雇
まず,本件で注目するべきは,メンタルヘルス不調が疑われる労働者に対する普通解雇である,という点です。

本判決で,労働者Xは,同僚Aをうちわで扇ぐ,Aが立ち上がると席を立って窓側へ移動する,事務室に出入りする際に顔を背けて歩く,Aに書類を渡す際,投げるように渡す,といった異常行動をとり続けており,言動も「Aからつきまとわれている」などというものであり,これについては上記判決でも「客観的に見ても異常ともいえる行動」と認定されています。

この事例読むと,精神疾患であることも想定されうるといえ,だとすると,日本ヒューレット・パッカード事件最高裁判決(H24.4.27)が思い起こされます。

同最高裁判決は,使用者は,仮に労働者がメンタルヘルス不調を自ら訴えていなくとも,労働者の言動などからメンタルヘルス不調が疑われる場合には,雇用契約上の信義則として,精神科医による健康診断,治療の勧告,休職等の処分を検討しなければならない義務がある,ということを最高裁は明らかにしました。

今回の事件でも,労働者は異常行動をとっていますが,自らメンタルヘルス不調を訴えておりませんし,訴訟上も主張がなされていません。

ただ,だからといって普通の健常者と同じ段取りでおこなった普通解雇が有効になるかは別途検討が必要だと思われます。

今後,上級審で,予備的にでもメンタルヘルス不調を労働者側が主張した場合,本件判決とは別の検討(メンタル不調者への普通解雇の可否・限界)がなされるものと思われます。

その意味で,控訴審に動向が気になります。また,この種の事案は労働審判で頻繁に提起され,弁護士として相談・依頼をよく受ける事案です。

(2) PCの管理上の問題が解雇理由になっている
最近は,PC及びインターネットの使用が業務の中心になっており,それに伴い,PC管理上の問題が解雇理由とされることが多くなりました。本件判決は,PC管理上の行為の普通解雇事由該当性の事例判断として参考になると思います。

まず,Y会社はコンピュータ・システムおよび通信ネットワーク・システムに関する企画立案、コンサルティング、設計、開発等を目的とする株式会社であり,PCのセキュリティはY社の信頼・業務に直結する重要性を有していました。

そのことを前提に,Xが,故意でセキュリティソフトやシステム管理ウエアを停止したことは,業務への支障が大きく,解雇理由に該当するとしました。

他方で,無断で自分が使うソフトをダウンロードしたり,私用メールを使ったり,自分のホームページを就業時間中に改訂したと伺われるとしても,それは解雇理由には該当しないと判断しました。このような事実は,解雇紛争でよく会社側が主張するのですが,この程度では解雇理由にならないという参考になります。

(3) 普通解雇を有効にするためにはここまで必要
今回は解雇を有効と判断するものであり,これまでの判例理論及び労働契約法などから,解雇は実質的に不自由となっている実務を踏まえますと,非常に参考になります。

まず,いずれの解雇理由についても,客観的証拠による立証に成功しています。ログ履歴やメールなどの証拠が揃っていました。

また,問題行為があった際に,注意指導の経過をメール等により証拠化できていました。

さらに,問題行為の一つについては,懲戒処分を経ています。

ここまで揃えば,普通解雇は有効になるという一つの実例になります。

ただ,ここまで揃っているケースは非常に少ないように思われます。
ですので,ここまでしないと解雇は有効にならない,ということを前提に,日頃の労務管理を行う必要があると思います。
 
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