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カテゴリ : 解雇・退職

新垣 解雇
こんにちは。弁護士の吉村です。

本日も労働問題に関する実務について弁護士としてコメントをさせていただきます。

本日の労働問題の実務トピックは,桐朋学園は新垣隆さんをクビに(解雇)できるか?です。時事ネタです。

既にマスコミを賑わしていることですが,全聾(ろう)の作曲家・佐村河内守(さむらごうち・まもる)氏が代表作を桐朋学園大非常勤講師の新垣隆氏に作曲してもらっていた,いわゆるゴーストライター問題がありました。新垣さんは2月6日都内で記者会見を開き,全容について告白しました。

このゴーストライター問題に関連し,新垣氏の勤務先である桐朋学園を「当然クビでしょ!」という意見もあれば,それに反対する声も多いようで,学生を中心に反対署名運動が展開されるなど,議論を呼んでいるようです。

では,実際のところ,桐朋学園は新垣氏を解雇できるのでしょうか?

※以下事実関係を仮定的に設定(新垣氏の記者会見を中心に報道機関の公表をソースにしていますが,正確性は保証の限りではありません。)

  • 新垣氏は桐朋学園大非常勤講師。「非常勤」であるので,桐朋学園との間で有期雇用契約を締結していると推測される。 
  • 新垣氏は,佐村河内氏の曲を担当した。報酬も約700万円ほど受け取っている。
  • 佐村河内氏は図表や言葉で曲のイメージを伝えてきたが,プロデューサーのような立場だった。佐村河内のアイディアを新垣が曲にして、佐村河内は自分のキャラクターを作って世に出した。

ポイント(これだけ読めば十分!)
① 有期雇用契約の期間途中であっても解雇を行うことはできるが、期間の定めのない労働契約(正社員)の解雇以上にハードルが高い。

② 
業務時間外の私生活上の問題行為については,雇用契約外の出来事なので,業務に影響を及ぼしたり、学校の信用を棄損するなど、職場秩序を撹乱する場合に限り,解雇などの不利益処分が可能となる。

③ 
新垣氏については,ゴーストライターとして楽曲を有償で佐村河内氏に提供しているが,それ自体は特に違法性はない。また,「全聾の作曲家・佐村河内守」をプロデュースしたのは佐村河内氏自身であり,そのような世間への売り込みに新垣氏は直接加担していない。また,自主的に公の場で真実を告白し,反省の弁を述べたこと,今後二度と同じ過ちを犯すとは考えられないこと,学生への音楽指導は非常に熱心に行っており,多くの学生が署名により寛大な処分を求めていること,等を総合的に考慮すれば,解雇は認められない。
 


 

 解   説 

1 有期雇用契約の期間中に解雇できるか?

契約期間途中で,労働契約を解約する使用者の意思表示は解雇であり,解雇権濫用法理等の解雇制限法理がストレートに適用されます。そして,その場合,期間の定めのない労働契約の解雇の場合に比べてより厳しく判断されるとされています。期間途中に解消する理由については民法628条の適用を受け,「やむを得ない理由」が必要とされます(労働契約法17条でも使用者の側からこの点を定め確認しています。)そして,この「やむを得ない理由」は,解雇権濫用法理における解雇の合理的理由の程度より厳しく判断されると解されます。つまり,正社員より解雇のハードルは高くなります。

 

2 私生活上の行為を理由に解雇できるか?

多くの会社の就業規則には,「会社の名誉・信用を毀損したとき」,「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」などといった懲戒解雇事由が定められています。但し,労働者が私生活上の非行を行ったからといって,一概に懲戒解雇ができるとは限りません。会社との雇用契約は就業時間中に限っての指揮命令関係が成立するにすぎず,就業時間外の労働者のプライベートな行動については原則と問題とすることができないのです。ただ,労働者は,雇用契約上に付随した義務として,使用者の名誉・信用を毀損しない義務が認められると考えられています。従って,労働者の私生活上の行為であっても,それが企業秩序に影響を及ぼすものである場合は,例外的に解雇の対象となるのです。

 

3 今回の新垣氏のゴーストライター問題

(1) ゴーストライターとしての問題点

まず,ゴーストライターとして楽曲を有償で佐村河内氏に提供しているが,それ自体は著作権法に抵触する訳ではなく,特に違法性はありません。実際にも,作曲家として活躍している人の中にも,第三者より楽曲を購入する人もいるでしょう。

 

(2) 「全聾の作曲家・佐村河内守」として世を欺いた点

「全聾の作曲家・佐村河内守」は,報道を見る限り,完全に佐村河内氏の自作自演です。私もNHKの番組は見ましたが,あたかも自ら作曲をしているかのような迫真に迫る演技でしたね。このようなプロデュースに,新垣氏は関与していなかったと考えられます。また「全聾の作曲家・佐村河内守」で売り抜いた利益は,佐村河内氏が基本的には手にしており,新垣氏に対しては微々たる対価しか支払われていなかったようです。このように利益の享有という意味でも,新垣氏は佐村河内氏のビジネスに直接的には関与していなかったと思われます。

 

(3) 桐朋学園の秩序を乱したか?

確かに,報道では桐朋学園非常勤講師としての肩書きが出ており,お騒がせはしたのは事実だと思います。しかし,上記のとおり新垣氏のゴーストライターとしての活動は法的には問題はありません。世の中の論調も,新垣氏を非難するものばかりではありませんし,桐朋学園の責任を問うという声も私が知る限り上がっていないようです。

自主的に公の場で真実を告白し,反省の弁を述べたこと,今後二度と同じ過ちを犯すとは考えられないこと,学生への音楽指導は非常に熱心に行っており,多くの学生が署名により寛大な処分を求めていること,など酌むべき事情も多くあります。

 

(4)結論

このような事情を総合的に考慮すれば,解雇は認められないと考えられます。
桐朋学園もHPで,「
今後、経緯や事実関係などを詳しく調査したうえで、厳正に対処いたします」 と明確に「解雇」と告げず慎重な態度をとっています。
こういう場合,実務的には,解雇はせずに,自主退職を促すのが一般的ですね。実際に一部報道では新垣氏が辞表を出したとするものがあります。 

 

【詳細な解説は公式サイト】

契約期間中に解雇できるか?」

逮捕された社員を解雇できる?


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退職届
こんにちは。弁護士の吉村です。

本日も労働問題に関する最新判例について弁護士としてコメントをさせていただきます。

本日の労働問題の判例は,退職の意思表示と動機の錯誤の有無の問題です。

退職勧奨を経て労働者が会社へ退職届を提出した後,「会社から脅されて提出したものなので,錯誤無効又脅迫を理由に取り消す」との主張がなされることがあります。今回の判例は,「錯誤無効」は単なる「動機の錯誤」に過ぎないと認定し,労働者側の訴えを退けました。

ここから会社の退職勧奨のやり方,退職届を受領する際の注意点を学びましょう。

 

 判 例 情 報 

プレナス事件

東京地裁(平成2565日)判決

労働経済判例速報 2191-3

 

 事 案 の 概 要 

【当事者】

X:当該労働者。H8 正社員採用

H19からは人事部所属

Y:弁当のフランチャイズ事業(ほっかほっか亭)などを行う

 

【事案の概要】

H23.9.1 XがYの退職年金制度変更に伴う退職予定金額を非難し,その旨を同僚約20名へメールを送信する。

H23.9.3 退職勧奨

H23.9.14 105日をもって退職する旨の退職願提出

 

 判   旨 

「原告は、本件退職願による退職の意思表示は、E部長の退職勧奨に応じなければ、懲戒解雇になり、その場合は退職金も支給されないものと誤解したためにされた錯誤によるものであり、無効である旨を主張」するが,
「原告が本件退職願を提出することを決断するに至った動機については曖昧で明らかではないし、」,また,退職勧奨に際して「E部長が懲戒処分や解雇の可能性、ましてや懲戒解雇による退職金不支給について言及したことはなく、原告も退職勧奨に応じなかった場合の処遇等に関して何ら言及していないこと」からすると,そもそも原告が「誤解があり、これに基づき本件退職願が提出されたとすることには疑問があるものといわざるを得ない。
仮に、原告が上記のような誤解に基づき本件退職願による退職の意思表示をしたものであるとしても、これは動機の錯誤であるといわざるを得ず、これが表示されていたことは一切うかがわれないのであるから、退職の意思表示につき要素の錯誤があったということはできない。」

 

ポイント

●労働者の退職届提出に意思表示の瑕疵があれば、無効・取り消しが主張可能

●退職勧奨の際は、言動に気をつける必要がある

●退職勧奨の会話は録音して残しておくといざという時に使える。

 

 解   説 

本来は解雇出来ないにもかかわらず,退職届を出さないと解雇になるなどと言って退職を迫った場合は,錯誤,詐欺,脅迫を理由に,退職の意思表示を無効とすること又は取り消される可能性があります。この種の労働問題は弁護士として時々相談を受けます。

 

裁判例でも,解雇事由に該当する事実もないのに解雇をちらつかせて恐怖心を生じさせ,従業員に退職の意思表示をさせる場合は,まさに上記強迫の故意が会社に認められますから,退職の意思表示は強迫によるものとして取り消されるとしています(澤井商店事件=大阪地決平元.327労判53616 ソニー〔早期割増退職金〕事件 東京地判平1449労判82956)。

 

今回紹介した裁判例の特徴は

退職勧奨を行った上司が,懲戒処分や解雇の可能性、懲戒解雇による退職金不支給,退職勧奨に応じなかった場合の処遇等に関して,何ら言及していないこと

に尽きます。

つまり,労働者へ恐怖心や錯誤を生じさせるような言動がなかった,と認定されたのです。

 

これに対し,労働者は,退職勧奨の際に,

「いや、いらん、人事部の仕事取り上げるんで仕事がなくなる、有休消化してやめたら」「会社では仕事ないので、店長として働けるかもしれない、働くとしても北海道、大阪、名古屋かもしれないけど」「やめたらよかねん」などとテーブルを叩くなどして罵声を浴びせられ退職を強要された

と主張していましたが,

裁判所はそのような事実は認められないと判示しました。

 

錯誤や強迫については,労働者に立証責任がありますので,裁判でのポイントは突き詰めればその証拠があるのか否か,ということになります。

 

この種の労働問題事案では,通常,退職勧奨の際の会話などがICレコーダーなどで録音され,それが証拠として提出されることが多いといえます。このような客観的証拠がない場合は,“言った言わないの世界”になり,証明責任を負う方が裁判では負けます

 

今回の労働問題事案では労働者は客観的証拠は出せませんでしたので,労働者の言い分について裁判所も認めませんでした。

 

仮に会社が退職勧奨の会話について録音をとり,かつ,実際に錯誤を誘発する強迫的言動がなされていないのであれば,それを証拠として提出出来れば,より確実に勝訴することができたでしょう。

 

このような事を考えますと,会社は,退職勧奨の面談の経緯を録音しておく,ということが,労働者の主張に対する反証をする意味で重要といえるでしょう。

もちろん,後々になって労働者に錯誤・強迫があったと主張されるような言動は行ってはいけません。最近では,労働者も退職勧奨の面談内容を録音していることが珍しくありませんので,基本的には録音されていると思いながら,言動には注意した方がよいでしょう。

 

なお,この労働問題についての弁護士による詳細な解説は公式サイト「退職届の無効・取り消しができる」 をご参照ください。

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吉村です。

更新が遅れて済みません。

さて,今回は,改正高年齢者雇用安定法(略して高齢法)の実務ポイント第2弾です。

高齢法について考えた場合,経営者として最も頭を悩ませるのは,「コスト」だと思います。

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週刊東洋経済(H25.1.26号)の記事によれば,

高齢者全員を雇用すれば,なんと1.9兆円のコストが増大するそうです。





これは凄い金額ですね。企業の人件費に占める割合も10%を占めるようです。

企業としては,このコスト増に対し,どのように対応するべきか?が最大の実務ポイントではないでしょうか?

そこで,今回は,高齢法に伴う人件費コスト増への対応について検討したいと思います。

コスト増への対応としては,大きく分けると,

① 60歳到達後の高齢労働者のコストの削減
② 60歳到達前の従業員のコストの削減

ということになろうかと思います。

① 60歳到達後の高齢労働者のコストの削減

60歳到達後の高齢労働者全員について,60歳到達前と同じレベルの賃金を支払い続けることは一般的にコスト面で難しいでしょう。

厚生労働省の調査によれば,再雇用者の賃金の定年到達時賃金との比率は,60%~70%程度とする企業が最も多くなっています(厚生労働省平成20年「高年齢者雇用実態調査」より)。

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このような大幅な賃金引き下げが可能な理由は,1つは高齢法が,65歳までの雇用確保方法として「再雇用制度」を認めていることが挙げられます。

「再雇用制度」は,定年退職+新規の再雇用というプロセス

を経ることにより,従来の雇用契約が一旦リセットされ,新たに労働契約が締結されるため,労働条件の再設定がしやすいのです。

では,具体的に,「再雇用制度」によって労働契約をどのように設定することができるでしょうか?

ⅰ 雇用形態
まず,コスト面から,正社員(期間の定めなし)として処遇する企業は現実的にはないと思われます。

よって,期間の定めがある契約社員,パートタイマー,アルバイト及び嘱託社員などが大多数であると思われます。
 
ⅱ 契約期間
契約期間については,1年単位で設定し更新している企業が圧倒的に多いです。

有期雇用契約の期間は原則的には最長3年ですが,60歳以上の者との労働契約は最長5年まで認められています(労基法14条)。

しかし,実際には,上記の様に1年単位で設定しているのは,1年単位の労働契約をその契約期間満了により更新しない(雇い止め)することが出来るとの考えによるものと推測されます。

但し,従来からある判例の雇い止め法理はもちろん,改正労働契約法19条で同法理が立法化されており,雇い止めにも相応の理由が求められることは注意しなければなりません。
 
ⅲ 労働時間
必ずしもフルタイム勤務にする必要はなく,
 
a 1日の労働時間はそのままで,労働日数を減らす
b 労働日数はそのままで,1日の労働時間を短縮する
c 労働日数,労働時間数いずれも減らす

という方法があり得ます。
 
労働時間が減少すれば,その分,賃金額も減額することが出来,コストの調整が可能となります。
 
ⅳ 賃金
再雇用に際し,賃金についての設定も自由で,この点について直接的に強制力を伴う規制はありません

ただ,労働契約法20条が,同一労働同一賃金の原則から,期間の定めの有無によって生ずる労働条件の相違は,「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度・・,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,不合理と認められるものであってはならない。」と定めます。

中小企業では,定年後も職務内容は全く変わらないのに,賃金は大幅に下げられるというケースは現実的には少なくありません。

すると,上記法律に違反するとして,定年前の水準による賃金を請求されるリスクがあります。

実務の対応としては,職務内容が定年前と変わらないとしても責任の程度を軽減する,人事異動の範囲を狭める等の配慮が必要であると共に,対象となる再雇用社員が訴訟を起こしたくなる程の不満を抱かせないことが大切になります。
 
以上の他,60再到達後は老齢年金や雇用保険の高年齢雇用継続給付が絡んできますので,これらを最大限活用した最適賃金を設計するという視点も重要となります。

今回はこのあたりで失礼します。

次回は,上記② 60歳到達前の従業員のコストの削減

について説明します。具体的には現役世代の賃金カーブの見直しがポイントになります。


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本日は,高年齢者雇用安定法について。

同法は既に改正され,来年4月1日より施行されることはご存じの方が多いと思いますが,結局ポイントは何なの?となるとあまり明確なものは少ないと思います。

そこで,この点について説明します。

実務上,最大のポイントは,

継続雇用の対象を労使協定で定める基準によって限定できる仕組みを廃止する

ことにあります。

なぜなら, 大多数の企業がこの仕組みを採用しており,廃止に伴い,希望者全員の継続雇用をしなければならず,業務や人件費の配分など,システムを変更する必要がある企業が多いからです。

【改正の経緯】

従来、同法では企業に対し、65歳までの雇用を確保するため

(1)定年の引き上げ
(2)継続雇用制度の導入
(3)定年廃止

のいずれかの制度を設けることを義務づけていました。

そして,(2)継続雇用については、労使協定で定めた基準に達しない場合、希望者を雇用しなくてもよい規定がありました。

つまり,会社の方で,「人事評価C以上の人」「会社の健康診断を受け問題のない人」等の基準を設け,この基準に満たない人は継続雇用の対象外にできたのです。 
 

(2)雇用確保措置を導入している企業のうち82・5%が継続雇用制度を導入しており,また、そのうち半数以上が基準を設け,基準に該当する者のみを継続雇用しています。

過去一年間で基準に達しないことを理由に再雇用されなかった労働者は約7000人にも上ると言われています。

他方で,お国の財政難から,年金開始年齢が上げられ,来年2013年度からは,継続雇用を希望していても、基準に該当せずに雇用継続されなかった結果,雇用も年金もない無収入の期間が生ずる人もでてくると言われています。

いまの国の予算では,雇用も年金もない人達をフォローする制度を構築できない,だったら企業でもってよ,ということで,今回法改正がなされました。 

つまり,法律改正により、継続雇用の対象者を限定する仕組みを廃止することになったのです。

その結果,希望者全員が原則として継続雇用されることになり,例外的に,就業規則で定められた解雇・退職に相当する客観的、合理的な理由があった場合にのみ、継続雇用の対象外になります。

【実務上の対応】
このように(2)継続雇用制度を導入している企業は,原則として希望者全員の雇用を継続しなければなりません。つまり,これまでは定めた基準に従って,雇用継続しないでもよかった層の労働者も雇用継続しなければならないのです。

売上も伸び悩み,業務も増加しない中での人員の増加,つまり,金も仕事も増えないのに,余剰人員だけが増えてしまうという構造になります。

それに対しては,単純に,金(人件費)と仕事(業務)を分け合う(分配する)しか方法はないでしょうね。


公表されている,経営者がとる方策は次のようなものです。

1 高齢従業員の貢献度を定期的に評価し、処遇へ反映する 44.2%
2 スキル・経験を活用できる業務には限りがあるため、提供可能な社内業務に従事させる 43.6%
3 半日勤務や週2~3日勤務などによる高齢従業員のワークシェアリングを実施する 41.0%
4 高齢従業員の処遇(賃金など)を引き下げる 30.0%
5 若手とペアを組んで仕事をさせ、後進の育成・技能伝承の機会を設ける 25.8%
6 60歳到達前・到達時に社外への再就職を支援する 24.1%
7 60歳到達前・到達時のグループ企業への出向・転籍機会を増やす 22.7%
8 新規採用数を抑制する 16.9%
9 60歳到達前の従業員の処遇を引き下げる 13.3%
10 社内には高齢従業員に提示する業務がないため、従来アウトソーシシングしていた業務を内製化したうえで従事させる 11.7%
11 特段の対応はしない 9.4%
12 高齢従業員の勤務地エリアを拡大する 8.9%
13 その他 7.2%

 (出典:2012 年10 月25 日 日本経済団体連合会 「2012 年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」 「高年齢者雇用安定法の改正にともない必要となる対応(複数回答)」)

そして,先日出された2013年の春闘に向け、経営側の指針となる経団連の「経営労働政策委員会報告」原案では,


原案では13年4月の改正高年齢者雇用安定法の施行に伴い、65歳までの継続雇用の比率が現在の74%から90%に上昇した場合、総賃金額は今後5年間で2%押し上げられると試算した。

試算を踏まえ、企業の人件費を抑えながら雇用を維持するには「賃金カーブの全体的な見直しが考えられる」と指摘。

中高年を中心とする現役世代の賃金抑制を求めた。特に中高年の給与が年功的になっている場合には「仕事・役割・貢献度を基軸とする賃金制度に再構築していくことが考えられる」と提案した。」となっています。

以上,ざくっとした内容ですが,実務ポイントを示しました。

もう少し具体的に書式等にも踏み込んだ解説は追ってさせていただきます。

~おわり~
 




 













 




 
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異常行動の継続,セキュリティ規程違反を理由とした普通解雇を有効とした事例

アイティフォー事件
東京地判平成24.7.10 WEB労政時報12.9.18
事案の概要
Y社は「金融機関・自治体向けシステム」の設計・開発等を目的とする株式会社
【経緯】
昭62.4.1 X(男性)期間の定めない雇用契約 当初はシステムエンジニアとして勤務
平元.4.1 総合職→一般職 降格
平3.4.1 一般職→総合職 昇格
平14.4.1 SEとしての能力不足等を理由に総合主管1級→3級へ降格
平18.12.12 Xの長時間離席し業務懈怠を理由に懲戒処分(総合職→一般職へ降格)
平21.6.30 普通解雇

【解雇理由】
①長時間離席し,職務に専念しなかった。
②特定の従業員に対する異常行動が職場の環境を乱した
③セキュリティソフトを無断で無効にする等情報管理規定違反

【訴訟提起】
地位確認,賃金支払,違法解雇の慰謝料請求を求めた。 
裁判所の判断
【解雇の合理的理由について】
解雇理由①について
Xは平成18年12月12日に長時間の離席等を理由として懲戒処分を受けた後も,他の社員よりも離席時間が長い状態が継続しており,上司からの注意にもかかわらず,根本的な改善には至らなかったと認定した。

※離席の事実は,入退室を記録するカードリーダーの履歴から認定

解雇理由②について

Xは,上司からの注意や,複数回にわたる調査にもかかわらず,同僚の女性社員Aからつきまとわれているとの強固な思い込みが解消されず,席替えや配置換えが行われた後も,客観的に見て異常ともいえる行動を長期間継続していたことが認められ,このことが他の社員の就労意欲や士気にも影響を与えていたと認定した。

※Xの異常行動とは,Aをうちわで扇ぐ,Aが立ち上がると席を立って窓側へ移動する,事務室に出入りする際に顔を背けて歩く,Aに書類を渡す際,投げるように渡す,などが認定されている。

※Xの異常行動は,度重なるメールによる注意,複数の同僚社員からのヒアリング記録等の客観的記録から認定されている。

解雇理由③について

(1) ウィルスバスターを故意に停止した。
(2) CAT(システム管理ソフト)を故意に停止した。
これらの点からセキュリティ規程違反があると認定した。

※ ログ履歴等のデータを分析した資料を証拠として認定している。

※ XがPCに業務と関連があるとはいい難いソフトウェアをインストールし,PC内に保存しておく必要があるとは思えないイントラネット内のデータや,自己のホームページ用と思われる多数の画像データ等を保存していたこと,自己のホームページ用と思われる画像データを私用のメールアドレスに送信したほか,給与明細やメールのデータも度々転送していたこと等の事実を認めるものの,それについての注意指導がなされた形跡がないこと,頻度や程度が不明であること,私用メールアドレスへの転送は2年で45回程度であること,を理由に職務専念義務違反とは評価できないと判示している。

【解雇の社会的相当性について】

上記諸事情に加え,
・ 以前にも長時間の離席を理由とした懲戒を受けていること(それにもかかわらず,前記のような問題点が改まらなかったこと)

・ 当裁判所においても,Xが自己の行動を正当化する態度は変わらず,第三者の指摘に沿って自己の問題点を振り返るという対応は今後も望めないと思われること

から,本件解雇は客観的に合理的な理由があり,社会的にみて相当なものであり,有効であると判断した。
コメント(実務上の参考事項)
(1) 異常行動をとる社員への不通解雇
まず,本件で注目するべきは,メンタルヘルス不調が疑われる労働者に対する普通解雇である,という点です。

本判決で,労働者Xは,同僚Aをうちわで扇ぐ,Aが立ち上がると席を立って窓側へ移動する,事務室に出入りする際に顔を背けて歩く,Aに書類を渡す際,投げるように渡す,といった異常行動をとり続けており,言動も「Aからつきまとわれている」などというものであり,これについては上記判決でも「客観的に見ても異常ともいえる行動」と認定されています。

この事例読むと,精神疾患であることも想定されうるといえ,だとすると,日本ヒューレット・パッカード事件最高裁判決(H24.4.27)が思い起こされます。

同最高裁判決は,使用者は,仮に労働者がメンタルヘルス不調を自ら訴えていなくとも,労働者の言動などからメンタルヘルス不調が疑われる場合には,雇用契約上の信義則として,精神科医による健康診断,治療の勧告,休職等の処分を検討しなければならない義務がある,ということを最高裁は明らかにしました。

今回の事件でも,労働者は異常行動をとっていますが,自らメンタルヘルス不調を訴えておりませんし,訴訟上も主張がなされていません。

ただ,だからといって普通の健常者と同じ段取りでおこなった普通解雇が有効になるかは別途検討が必要だと思われます。

今後,上級審で,予備的にでもメンタルヘルス不調を労働者側が主張した場合,本件判決とは別の検討(メンタル不調者への普通解雇の可否・限界)がなされるものと思われます。

その意味で,控訴審に動向が気になります。また,この種の事案は労働審判で頻繁に提起され,弁護士として相談・依頼をよく受ける事案です。

(2) PCの管理上の問題が解雇理由になっている
最近は,PC及びインターネットの使用が業務の中心になっており,それに伴い,PC管理上の問題が解雇理由とされることが多くなりました。本件判決は,PC管理上の行為の普通解雇事由該当性の事例判断として参考になると思います。

まず,Y会社はコンピュータ・システムおよび通信ネットワーク・システムに関する企画立案、コンサルティング、設計、開発等を目的とする株式会社であり,PCのセキュリティはY社の信頼・業務に直結する重要性を有していました。

そのことを前提に,Xが,故意でセキュリティソフトやシステム管理ウエアを停止したことは,業務への支障が大きく,解雇理由に該当するとしました。

他方で,無断で自分が使うソフトをダウンロードしたり,私用メールを使ったり,自分のホームページを就業時間中に改訂したと伺われるとしても,それは解雇理由には該当しないと判断しました。このような事実は,解雇紛争でよく会社側が主張するのですが,この程度では解雇理由にならないという参考になります。

(3) 普通解雇を有効にするためにはここまで必要
今回は解雇を有効と判断するものであり,これまでの判例理論及び労働契約法などから,解雇は実質的に不自由となっている実務を踏まえますと,非常に参考になります。

まず,いずれの解雇理由についても,客観的証拠による立証に成功しています。ログ履歴やメールなどの証拠が揃っていました。

また,問題行為があった際に,注意指導の経過をメール等により証拠化できていました。

さらに,問題行為の一つについては,懲戒処分を経ています。

ここまで揃えば,普通解雇は有効になるという一つの実例になります。

ただ,ここまで揃っているケースは非常に少ないように思われます。
ですので,ここまでしないと解雇は有効にならない,ということを前提に,日頃の労務管理を行う必要があると思います。
 
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