こんにちは,弁護士の吉村です。

本日も労働問題に関する実務について弁護士としてコメントをさせていただきます。

本日の労働問題のトピックは,行政指導を受けたドワンゴの受験料は労働法的にどうなのか?です。身近な時事ネタを通じて勉強しましょう。

 

既にマスコミに出ていますが,niconicoを運営する大手IT企業ドワンゴが入社希望者から受験料(2525円)を徴収する制度を導入したことが問題になっていました。

 

この件については,「今の就職活動は無料だから手当たり次第エントリーして内定した所に入社してたけど、「自分がどこに入社したいのか」を学生がもっと真剣に考える事になると思う。」などと賛成する意見がある一方,「収入の無い子供から金巻き上げるのやめなさい。プレミ解約すんぞ!」などという反対意見も多くありました。

 

そして,今年2月中旬頃,厚生労働省がドワンゴに対して,行政指導をしたとの報道がなされました。 


来春卒業予定の大学生らの採用を巡り、大手IT企業「ドワンゴ」(東京)が入社希望者から受験料を徴収する制度を導入した問題で、厚生労働省東京労働局が「新卒者の就職活動が制約される恐れがある」として、職業安定法に基づき、次の2016年春卒の採用から自主的に徴収をやめるよう行政指導をしていたことがわかった。

読売新聞


では,実際のところ,ドワンゴの受験料制度は労働法的にどうなのでしょうか?
 

ポイント(これだけ読めば十分!)

①ドワンゴの受験料制度は労働法的にはグレー。

②今回の厚労省労働局の「行政指導」は,実際には「助言」にとどまる。つまり,受験料制度が「違法」であることを前提とした改善命令ではない。

③ドワンゴの受験料制度には合理的理由もありそう。ただ,企業又は経営者として尊敬はされない。

 

 

 解   説 

1 受験料徴収制度は違法か?

 

(1)法律的には職業安定法39条の問題

まず,企業が採用選考に際して受験料をとってよいのか否かについては,職業安定法39条にひっかかるか?が問題となります。職業安定法というとハローワークなどをイメージするかもしれませんが,いま話題の派遣法を理解する上では必須の内容を定めていたりして,重要な法律です(この点は後日解説します。)。

 

ここで職業安定法39条は,「労働者の募集を行う者は、募集に応じた労働者から、その募集に関し、いかなる名義でも、報酬を受けてはならない。」と定めています。

 

この規定は,企業が募集にかこつけて労働者から不当にカネを巻き上げることを禁止し,労働者の募集へ応募するチャンスを奪うことを禁止するためのものです。

 

従って,ドワンゴの受験料制度がこれに違反しないかが問題となるのです。

 

(2)ドワンゴの受験料制度は違法とは直ちにいえない


【 
ドワンゴの受験料制度の概要 】

① 新卒採用で導入 金額は2525円 
② 1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)に限る

③ 目的は「本気で当社で働きたいと思っているかたに受験していただきたいから」

④ 手数料は全額ドワンゴ負担。受験料は奨学制度の基金等へ全額寄付予定。

⑤ 説明会,プレエントリー段階では発生せず。エントリーの際に発生。

⑥ 企業の側も受験生が多すぎて、採用の手間ばかりが増えて、本当に必要な人材を見極める十分な時間をかけることが難しい


とのことです。

 

金額2525円はそれ単価では高いとはいえない

説明会やプレエントリーの段階では受験料は発生せず,かつ,採用試験等のコスト自体はドワンゴが負担すること,

そして,受け取った受験料は「独立行政法人日本学生支援機構」へ全額寄付すること,

からしますと,

企業が募集にかこつけて労働者から不当にカネを巻き上げる

労働者の募集へ応募するチャンスを奪う

とまでは直ちに言えず,職安法39条に違反するとはいえないとも思われます。

 

他方で,

受験料をとること自体,学生には負担感がある

寄付するからといって,学生からカネを取ることには変わりない

採用試験の費用はドワンゴが負担するとなると,純粋に「カネ」で学生を本気を試すことになり,それ自体果たして合理性があると言えるのか

ということを考えると,職安法39条に実質的に違反するのではないかとも思えます。

 

つまり,違法とも適法とも言えない,「グレー」な状況にあります。

このようなスッキリしない状態ですので,ドワンゴは,今でも「受験料を取ることは白やで!」と強気に出ています。

 

2 厚労省の行政指導とは?

(1) 厚労省の解釈もグレー

では,職安法事案を取り扱う厚労省の見解は?

というと,よ~わからん,内部でも意見が割れている,とのことです。

つまり,厚労省もグレーだね,という見解なのです。

でも,厚労省としては,ドワンゴだけではなく他の企業もマネしたら,現状50~100くらいはエントリーする学生にとって過大な負担となるので,「新卒者の就職活動が制約される恐れがある」と雇用政策上の危機感を持っているようです。

 

(2) 厚労省の行政指導は,実は「助言」にすぎなかった

そこで,厚労省がとった苦肉の策が,今回の行政指導でした。

正確には,「職業安定法 第48条の2に基づき、2015年以降の受験料徴収の自主的な中止を求める旨の「助言」です。

 

この「助言」は,文字通りアドバイスに留まり,法的拘束力はありません。また,法律違反があったことを前提とするものではなく,「業務の適正な運営を確保するため」に行われるものに過ぎません。

 

(3) 助言を受けてもドワンゴは強気


法律違反と言われた訳では無く,かつ,助言に過ぎませんので,ドワンゴは強気な対応を続けています。

・入社採用試験に際して1人の受験生が100社以上もエントリーしている状況が正常であるとは言い難く、受験生、企業の双方にも大きな負荷がかかっておりこうした状況を解消すべきと考えています。
・お金を払える人だけが採用試験を受けられることで、収入格差によって就職の機会が奪われる可能性があるという指摘については否定しませんが、現在の弊社の受験料2,525円が収入格差により就職の機会を奪うほどの高額であるとは認識していません。また、将来的な可能性ではなく、現時点においても地方に在住する学生は交通費などの経費負担が大きいため首都圏の学生と比較して金銭的な理由からも就職の機会を奪われている状況にあると考えています。弊社が一都三県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)からのみ受験料を徴収するのは、この格差を多少なりとも軽減する狙いです。
・昨年以前と比較して、応募者の評価にじっくりと時間をかけられるようになり、また、昨年よりも応募者の質が向上していると感じています。こうした状況からも施策は成功しており、現段階では来年度も受験料制度を継続したいと考えています。

 

3 ただ,尊敬はされない

 

以上から,ドワンゴの受験料制度は労働法的には違法といわれるまでのものではなく,かつ,実際にエントリー数が減少し,ドワンゴいわく「応募者の質が向上している」とのことですので,一定の合理性もあったのでしょう。

 

でも,尊敬されないですよね。

企業が学生からカネとってふるいにかける,なんて発想は,斬新な発想でも何でもなく,ダサすぎてこれまで企業がやってこなかっただけじゃないですか?就職氷河期で買い手市場を逆手にとっているみたいで。
また,学生も好きこのんで100社もエントリーしている訳ではなく,それだけエントリーしてもなかなか内定を得ることが出来ない現状こそが原因なのではないでしょうか。
企業側の負担といっても,要は採用コストの問題でしょう。順調に収益を伸ばしているドワンゴが,学生に受験料を課して採用コストを削減しようとするというのもいかがなものでしょうか? 
敬意を失った企業から優秀な人材の一部は離れていくでしょう。結果として,削減コスト以上の価値を失うことになるのではないでしょうか。
いずれにしても,ドワンゴが生み出している素晴らしいコンテンツに比べると,非常に残念な制度ですよね。


以上です。

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