こんにちは。弁護士の吉村です。

本日も労働問題に関する実務について弁護士としてコメントをさせていただきます。
(2014/11/16初稿 11/20更新)

日テレ 内定取消
2014年11月15日本記事のトピックについて「めざましどようび」で取材を受けました。)
平成26年12月2日付朝日新聞朝刊の記事においても取材・コメントを発表しました。


本日の労働問題のトピックは,
本日の労働問題の実務トピックは,日本テレビによる女子大生のアナウンサー内定取消は有効か?です。です。


既にマスコミを賑わしていることですが,東洋英和女学院大4年生の笹崎里菜さん(22)が日本テレビより来年4月に入社予定で女子アナウンサーとして内定を得ていました。
しかし,笹崎さんがクラブでホステスのアルバイトをしていたことが女子アナウンサーの清廉性にそぐわない等を理由として内定取消しがなされました。内定取消を不服とする笹崎さんは日本テレビを相手に東京地方裁判所へ「地位確認請求」訴訟を提起しました。その第1回口頭弁論期日が昨日(平成26年11月14日)開かれたとのことでした。

この問題に関連し,「クラブで働く人は清潔さに欠けるというのは独自の偏見だ」「アナウンサーになりたい人はホステスをやってはいけないのか。」として笹崎さんを擁護する意見もあれば,逆に,「女子アナウンサーとしてのイメージダウンは必至。だから内定取消もやむを得ない。」「まずいと思っていたから履歴書に書かなかったのでは」「売名行為か」などという厳しいコメントもあるようです。 では,実際のところ,日テレの内定取消は有効なのでしょうか? 

 

ポイント(これだけ読めばOK)① 内定取消が有効か否かは,①「採用内定当時知ることができず,また知ることが期待できない」事実が後に判明し,しかも,②それにより採用内定を取り消すことが「客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できる」か否かという最高裁の基準で決められる。

② 笹崎さんのホステスでのアルバイト歴は,採用内定当時に日テレに知られていなかったので,①「採用内定当時知ることができず,また知ることが期待できない」事実が後に判明したとは言える。

③ また,女子アナウンサーという職種は,公共の電波を通じて報道を広く一般大衆に伝えるという職務であり,清廉性・信用性のイメージというものも要求される。ホステスでのアルバイト歴という経歴は,現実的にはその女子アナウンサーとして要求されるイメージを全く損なわないとは言えないとからすれば,「清廉性を損なう」との日テレの内定取消理由も全く不合理とまでは言い切れない。ただ,今回の笹崎さんのホステスの経歴の内容からすると,致命的なイメージダウンとまで断定することは出来ず,その意味で「清廉性を損なう」との理由の合理性は乏しいと言わざるを得ない。

④ また,日テレは内定取消の理由の一つとしてホステスのアルバイト歴を申告しなかったのは会社への虚偽申告であることも挙げている。しかし,笹崎さんが積極的に虚偽申告をしたとまで断ずることは難しいと思われる。

⑤ 
さらに,内定取消のタイミングからして他社のアナウンサーのみちも閉ざされている状況では,内定取消の社会的相当性も存在しないと判断される可能性が高い。 

⑥ 
以上から,結論として内定取消は無効,地位確認を認めるとの判決が下される可能性は非常に高いと思われる。 

⑦ 地位確認訴訟の判決が出るまでは1年以上はかかり,かつ,女子アナウンサー業務を命ずる判決は出ない。現実的な落としどころは早期の和解により金銭的解決及び仕事のフォローではないか。 


どういう場合に採用内定取消ができる?

まず,採用内定は何を意味するか,ということですが,「始期付解約権留保付労働契約」(しきてきかいやくけんりゅうほつきろうどうけいやく)であると言われています。

やたら漢字が長いですが,実は内容は簡単です。つまり,採用内定の段階で既に会社との雇用契約は成立しています。ただし,卒業後4月1日入社という「始期」が定まっており,かつ,例えば卒業できなかった場合は解消されるという「解約権」のオプションがつけられている,ということを意味します。

内定取消とは,この解約権が発動する場面を意味します。

では,どういう場合に内定取消(解約権の行為)が認められるかといいますと,最高裁判例では,①「採用内定当時知ることができず,また知ることが期待できない」事実が後に判明し,しかも,②それにより採用内定を取り消すことが「客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できる」場合であるとの基準が定立されています。

この要件をクリアした場合に内定取消は認められるのです。 今回のケースでは,笹崎さんがホステスのアルバイト歴があったことは内定後に判明したことは間違いなさそうなので,①「採用内定当時知ることができず,また知ることが期待できない」事実が後に判明したことは認められそうです。

問題は,②内定取消の合理的理由・社会的相当性の有無ということになります。

今回での訴訟もこの点が争点になると思われます。

具体的には,日テレ側は内定取消の理由は次の2点です。
①ホステスのアルバイト歴が,高度の清廉さが求められるアナウンサーという職業にふさわしくない
②ホステスのアルバイト歴を申告しなかったのは,会社への虚偽申告にあたる
この2つの理由が合理的で社会的相当性があるのかが争点となります。

 

ホステスのアルバイト歴は女子アナの清廉性にふさわしくない?

(1) 女子アナという仕事に清廉性が求められるのか?

女子アナウンサーという職種は,公共の電波を通じて報道を広く一般大衆に伝えるという職務であり,単に原稿を正確に読み上げる言語能力のみならず,清廉性・信用性のイメージというものも要求されるというのは間違いないでしょう。また,女子アナウンサーはその局の「顔」という意味も有しており,その意味でも清廉なイメージは要求されると考えられます。

この点,裁判所も女子アナウンサーの職務内容は,信頼感やタレント性をも必要とする職業であると判断しています(
※奇しくも日本テレビの女子アナウンサーについての裁判例です。)


テレビ放送におけるアナウンス業務は、日本語その他の放送用語についての正確な知識、一般的な教養、社会常識等はもとより、的確な言葉の選出、発声、発音、話術や臨機の注意力、理解力、判断力等アナウンサーに独特の技術、能力を要求されるとともに、カメラを通じて映し出される人間的な温かさや信頼感各種のタレント性をも必要とする高度に専門的な業務」であると判示しています(日本テレビ放送網事件 東京地方裁判所 昭和50年7月23日決定)。


(2) ホステスのアルバイト歴は女子アナの清廉性にそぐわないのか?

例えば,今をときめく人気女子アナウンサーとして日テレの水卜麻美アナや“カトパン”こと加藤綾子アナがいます。まさに,局の顔としてのイメージをもつこの人達が,学生時代にホステスのアルバイトをしていたことが報道されたとした場合,今と同じ地位を維持できるでしょうか?それこそ各報道機関がスキャンダルとして報道するでしょうから,現実的には難しいと言わざるを得ないのが実情だと思います。日本テレビは,局を代表する人気女子アナ候補の一人として笹崎さんを採用内定したはずですので,人気女子アナのイメージにとってマイナスに作用する(日テレに言わせれば「清廉性にそぐわない」)とする日テレの見解には全く合理性が無いとは言い切れないでしょう。

 

(3) ホステスの仕事は清廉性がないのか?

日本テレビもホステスの仕事は清廉性が無いとまでは言っていません。ホステスの仕事が水商売で悪いとも言っていません。あくまでも,女子アナという職種を特定して採用内定したので,その職種への適格性という観点からすると,イメージにマイナスに作用する可能性が高いと判断したのだと思います。つまり,スキャンダルとして後々他のマスコミに取り上げられる可能性が高いと判断したのです。スキャンダルとして世論が取り上げること自体は可能性は高いと言わざるを得ないでしょう(現実にも取り上げられている。)。
この部分を,「ホステスの仕事を蔑視している!」「時代錯誤的だ!」などと議論することは,ちょっと的外れな気がします(ただ,笹崎さんの訴状を確認したところ,このような立論がなされていました。裁判官はそんなにアホではないと思いますので,ピント外れな感は否めません。)。例えば,笹崎さんが,女子アナウンサーとしてではなく,事務職として内定していたのであれば,日テレは内定取り消しなどしなかったでしょう。なぜなら,事務職の場合は,清廉性のようなイメージが職種上要求されないので,仮にホステスのバイト歴があったとしても,職務遂行上全く支障がないからです。あくまでも女子アナとしての職種が特殊であることを忘れてはいけません。
 

(4) ホステスとはいってもお手伝い程度だった?

もっとも,笹崎さんが行ったというホステスのアルバイトは,ごく短期間,笹崎さんの知人の関係で頼まれて行った銀座の小さなクラブであったとのことです。別に風俗で働いていたわけでもありませんし,変なキャバクラで働いていた訳でもありません。この程度であれば,仮に報道されたとしても大したイメージダウンにならないとも思えますし,事前に何か手を打つことも可能であるとも言えそうです。 つまり,笹崎さんの実際の事情を慎重に考慮すると,女子アナとして採用した後,そこまで明確にイメージダウンで使いものにならなくなってしまうとまで断定できるかは大いに疑問の余地があると思います。ですので,女子アナの清廉性に反するとの理由は,合理性に乏しいと言わざるを得ないでしょう。

 

3 アルバイト歴を申告しなかったのは虚偽申告にあたる?

(1) 当事者の主張

日テレは,笹崎さんが採用内定前に行われたセミナーで記入した自己紹介シートにホステスのアルバイト歴を記載しなかったことが虚偽申告であると主張しているようです。これに対して,笹崎さん側は,セミナーでの自己紹介シートなので,採用を前提としているとは思わなかった,全てのアルバイト歴を書けとも言われなかった,と笹崎さん側は主張しています。

 

(2) 笹崎さんの反論はちょっと無理がある!?

ただ,このセミナーは女子アナウンサーになりたい人が参加するもので,事実上の採用活動の一環となっていることは当然の事実となっていたのではないでしょうか。にもかかわらず,採用を前提としているとはつゆも思わなかった,というのはかなり無理があると思います。また,ホステスのアルバイト歴を日テレが知っていたら,採用内定はもらえないかもしれない,との認識は笹崎さんに本当になかったのでしょうか?あったからこそ,採用内定前には申告せず,内定後になって申告したのではないでしょうか?おそらく日テレ側は,セミナーに際して全てのアルバイト歴を書くように指示した,女子アナウンサーとしての職務の性質からして,後々スキャンダルとして公表されるおそれのある経歴は全て申告するように指示した,などと主張すると思います。

 

(3) 結局,虚偽申告と断定できない

もっとも,先ほど述べたとおり,今回の笹崎さんのアルバイトの経歴は,明白に女子アナとしての適格性に支障を生じさせるとまで断定出来るものではありませんでしたので,そもそも申告しなかったとことをもって,虚偽申告であると日テレが断ずることはできないと思われます。
 

社会的相当性がない

以上から,日テレが主張する内定取消理由は全く合理性がないとまでは言い切れないと思います。
ただ,内定取消が有効になるためには,合理性だけではなく,社会的相当性まで必要です。 社会的相当性というのは,単に内定取消の理由が合理的であるだけでは足りず,内定後に判明した事実関係からすると,内定者がよほど悪質であり,如何なる措置をとっても正式採用して雇用契約を継続することが出来ず,内定取消をする以外に方法がないといった場合である事が要求されます。

今回のケースで,昨年9月に内定後は他社での就職活動を禁ずる誓約書を笹崎さんに提出させ他社での可能性を制限した上で,本年5月頃という他社でアナウンサーの採用が事実上不可能なタイミングで内定取消をすることは,事実上笹崎さんが新卒でアナウンサーになる道を閉ざすものであり,与える影響が実に大きいです。

また,ホステスのアルバイト歴は笹崎さん自ら日テレに正直に申告しており,別の報道機関からイメージダウンさせる方向で報道されたという訳ではない。つまり,今後,果たして本当に笹崎さんが女子アナウンサーとしての適格性が欠けると世間が評価する可能性は低いといえる。別に回避する方法で,この経歴が響かないようにすることもできるかもしれない。

このようなことを総合考慮すると内定取消の社会的相当性も存在しないと判断される可能性が高いと思われます。

結論

このような事情を総合的に考慮すれば,結論的に日テレの内定取消は認められないと考えられます。

では,この後の訴訟の展開はどうなるのでしょうか?

この後の訴訟の展開予想

判決は4月1日までには出ない

 まず,地位確認訴訟は,判決に至るまで最低でも半年から一年はかかるのが通常ですので,採用予定の平成27年4月1日までには判決が出ることはまず無いでしょう。ですので,笹崎さん側が判決を得られるのは,おそらく来年の末頃から再来年でしょう。でも,それでは,笹崎さんのキャリアのブランクが空きすぎてしまいますし,4月1日に入局し,様々な経験・研修を受けてステップアップしている同期との間にも大きな差ができてしまうことでしょう。

 

判決では日テレにアナウンサー業務を命ずることはできない

また,地位確認訴訟で最終的に出される判決は,あくまでも笹崎さんが日本テレビとの間で雇用契約があることの「確認」の判決です。アナウンサーとして勤務させることを命ずる判決はでません。
つまり,判決により強制的に日本テレビにおいてアナウンサー業務をさせることは出来ないのです。
判決で出来ることは,上記確認と共に,平成27年4月1日以降,日本テレビに勤めたとした場合に得られる給料の支払いくらいです。新人の初任給などはたかがしれていますので,給料の支払いを得たとしても殆どが弁護士費用に消えてしまい,笹崎さんとしては得られるものはあまりないように思います。 


早期の和解で金銭的解決+業界での別ルート保障が現実的な着地点?

以上のとおり,地位確認訴訟をガチで続ければ勝訴判決を得られる見込みは高いですが,日本テレビで女子アナウンサーをやるという目的を達成することは現実的には難しいでしょう。また,時間が1年くらいかかってしまいますので,女子アナ以外の別のルートへ進路変更するにしても,”賞味期間切れ”になってしまう恐れがあると思います。
従って,笹崎さん側としても,訴訟を続けることはあまりメリットがありません。
他方で,日本テレビ側としても,将来ある笹崎さんを違法な内定取消で振り回してしまっていることは事実ですし,このトラブルを穏当に解決できない日本テレビの対応にも批判が集まり,よろしくありません。
そうすると,双方としては,和解により早期解決を図る方が絶対よいでしょう。 問題は和解の内容です。


ここまで大事になってしまっているので,笹崎さんが日本テレビで女子アナウンサーとして活動することは現実問題として難しいでしょう。笹崎さんが日本テレビで当初予定されていた人気女子アナウンサーとしてのルートを辿ることは難しいでしょうし, 周囲の社員も非常にやりずらいと思います。そのことは普通の社会人であれば想像に難くないと思いますし,笹崎さん自身も理解されているのではないでしょうか。

そうなると,まずは金銭的解決でしょう。金額は,通常企業の新卒採用の内定取消ですと,約200万円~300万円が和解の相場ですが,笹崎さんの失ったものからするとその金額ではまとめることはできないでしょう。おそらくその数倍の金額の提示は必要でしょう。

また,笹崎さんの今後の進路変更へのサポートを事実上行うということも必要かもしれません。例えば,芸能人として活躍できる道筋を作る,別の系列放送局への入社を約束するなどです。

このように早期和解での解決により紛争が長期化しないようにすることが双方にとって最善だと思います。

なお,私が笹崎さんを弁護するのであれば,訴訟を提起せずに事前の交渉で上記解決を図ったと思います。
今回のように訴訟を提起していまうと,当然報道され,笹崎さんも日本テレビも引くに引けない状況になることは明らかであり,早期かつ柔軟な解決が難しくなるからです。また,報道されることにより,笹崎さんがいわれのないゴシップネタの対象となり,かえってイメージが損なわれてしまうのではないでしょうか?一番傷つくのは笹崎さん本人です。また若く将来もあり,ミスにも選ばれる程容姿端麗をお持ちの女性がこのような下らないゴシップによって足止めされることは非常にもったいないことだと思います。そのようは事情を総合考慮すると,今回の訴訟という措置は,選択肢として疑問を持たざるを得ません。

最後に,早期に解決し,笹崎さんのキャリアが前向きに進むことを祈ります。


 

【参考サイト】
・ 新卒の内定取消
 ・   解雇で弁護士に相談したい場合なら





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