弁護士の吉村です。

本日も労働問題について弁護士として解説を行います。

今回は,小保方さんが理化学研究所の懲戒委員会へ提出した弁明書について解説します。

 

ポイント(これだけ読めばOK)① 弁明書とは、懲戒処分を受ける労働者が、懲戒処分を回避するべく弁解を記載した書面
② 
小保方弁護団の弁明書は、理研が行った不正行為の認定に対する不服申し立て・反論と同じ内容であり、認められる可能性は低い。
③ 
不正研究をしたことを前提に、諭旨解雇又は懲戒解雇も十分ありえる。

 

弁明書とは?

懲戒解雇や諭旨解雇の懲戒処分は,労働者の規則違反行為に対する制裁として行われます。制裁という性質上,慎重に手続が行われるのが通常です。そこで,会社(又は懲戒委員会を設置する会社では懲戒委員会)が労働者に対し懲戒処分を実施しようとする場合,対象となる労働者に対し弁解の機会が与えられるのが通常です。弁解の機会を与えられた労働者が会社や懲戒委員会に対し提出する弁解の文書が弁明書です。懲戒処分を回避したい,又は出来るだけ軽い処分にしてもらいたい労働者は,適切かつ有効な弁明書を会社(懲戒委員会)に提出することが重要になります。

 

小保方弁護団の弁明書の概要

・調査委員会による認定判断は、研究不正の解釈及び事実認定を誤っており、調査及び再調査開始審査の過程にも重大な手続き違反がある。

・このような調査委員会の認定判断を前提に、懲戒委員会が「諭旨解雇」や「懲戒解雇」が相当であると判断した場合、その懲戒処分は違法となる。

・STAP論文で指摘された画像の加工などは「科学者として不適切な行為」であったことは小保方氏も深く反省しており、一定の処分がなされることはありえるが、「諭旨解雇」や「懲戒解雇」は重すぎる。

 

小保方弁護団の弁明は通用するか?

 

1 「改ざん」「捏造」の定義を狭く解釈するべきとの弁明

小保方氏の主張:「改ざん」については、研究資料に操作が加えられてデータの変更が行われたとしても、研究活動によって得られた結果が偽装されていなければ改ざんにあたらない。「捏造」についても、研究自体が架空であるような場合に限って捏造にあたる。このように狭く解釈するべきである。

 

コメント:小保方氏の主張は相変わらず、結果が正しいのだから,そのプロセスの説明部分で画像の切り貼りしたり、全く関係ない画像が貼ってあったとしても問題ないというものです。しかし,科学論文という性質上,結果はもちろん,プロセスについても正確性,真実性が非常に強く要請されます。プロセスがいい加減ならば,結果について検証の仕様がないですし、正確なプロセスの積み重ねこそが科学の根幹をなすからです。

従って、小保方氏の主張はかなり無理があり、通用しません。

 

2 「悪意」の定義を狭く解釈するべきとの弁明

小保方氏の主張:「悪意」とは、「データの誤った解釈へ誘導する危険性」の認識では足りず、「研究活動によって得られた結果等を真性でないものに加工する」認識まであって初めて悪意があったと狭く解釈するべき。

コメント:「悪意」というのは、不正研究を行ったことを認識していることを意味しますので、結局「不正研究」をどう解釈するかと関連します。先ほどのとおり、小保方氏は、「プロセス」に虚偽を加えること自体は「不正研究」ではないと考えるので、結果が間違っていない以上、悪意はないと言い張っているのです。しかし、「プロセス」の改変自体、「研究不正」にあたることは言うまでもありませんので、小保方氏の「悪意」の捉え方は採用されません。よって、小保方氏は「悪意」があったことは間違いなく認定されるでしょう。

 

なお、理研は、小保方氏の「悪意」を認定する事情として、小保方氏がSceince誌の査読者からの指摘(改ざん)を受けていたことをあげていました。これに対し、小保方氏は、Sceince誌のエディターから論文を却下し、かつ、再投稿も許可しないとの結果を伝えられたので、査読者からの指摘は一切確認しておらず、改ざんにも気がつかなかったと弁解しています。しかし、これも自分が出した論文が却下され、その理由を確認しない科学者などいるでしょうか?常識的に考えられません。当然、小保方氏のこの反論も認められないでしょう。

 

3 その他

その他、再調査をしなかったのは間違いであるとか、STAP細胞の再現性に係わる検証実験の結果を待って判断するべきであるとか、再調査委員の中にも改ざんの疑いがあったとか、細かい指摘をしていますが、いずれも小保方氏が行った不正行為との関係では本質的な反論にはなっておらず、見るべきものはありません。

 

4 結論

よって、小保方氏の弁明書の提出によっても、これまでの理研の不正研究の判定が覆る可能性は低く、「諭旨解雇」又は「懲戒解雇」などの重い処分も十分ありえるでしょう。


【関連記事】
小保方晴子さん、懲戒解雇か?
今後の小保方さんの戦い方
懲戒解雇への対応方法

【相談】
解雇されそうな場合は弁護士へ相談




 

 

    このエントリーをはてなブックマークに追加