弁護士の吉村です。

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本日も労働問題に関し弁護士として解説させていただきます。

前回に引き続き,巷で話題の小保方さんの改ざん・捏造問題についてです。

「STAP細胞」論文について,本年4月1日,理研より改ざん及び捏造の研究不正の単独犯として断罪された小保方さん。謝罪は一切せずに,直ちに弁護士を雇い,「驚きと憤りの気持ちでいっぱいです」と怒りをあらわにし,研究不正判定については,不服申立をすると宣言しました。

しかし,ここにきて一転,小保方さんは代理人を通じて「世間をお騒がせし、共同著者に迷惑をかけ、若い研究者として至らなかった点はおわびしたい」と話し「今後も理化学研究所で研究を続けたい」という意向を示していると報道されました。

一切謝罪をせず怒りを爆発させていた小保方さん。理研に戻っても誰も援助者はおらず四面楚歌は目に見えています。本気なのでしょうか?その背後にある戦略とは?

 

ポイント(これだけ読めばOK)① 小保方さんの謝罪,職務継続の表明は,今後の法廷闘争を有利に進める為の戦略にすぎない。
② 本当の
狙いは,懲戒解雇処分を回避し,研究者としての立場を維持しながら,最終的には他への転職にある。
③ 本当に重要な争点はSTAP細胞の再現性。理研と小保方さんお本当の闘いはこれから。 

 

懲戒解雇を回避する弁護戦略は?

まず,一般に懲戒解雇されそうな労働者がとる戦略は,

①懲戒解雇の原因がないことを主張する

②反省の謝罪の意思を示し情状酌量を得る

③職務継続の意思を示す

ことが基本となります。これについて以下説明します。 

①懲戒解雇原因について

懲戒解雇は,そもそも原因がなければされることはありません。いわば刑法で禁止されている行為をした事実がなければ無罪となるのと同じです。

理研が定める懲戒解雇原因は次のとおりです。

就業規則第52条(諭旨退職及び懲戒解雇)

研究の提案、実行、見直し及び研究結果を報告する場合における不正行為(捏造、改ざん及び盗用)が認定されたとき。

 

科学研究上の不正行為の防止等に関する規程

第2条 この規程において「研究者等」とは、研究所の研究活動に従事する者をいう。

2 この規程において「研究不正」とは、研究者等が研究活動を行う場合における次の各号に掲げる行為をいう。ただし、悪意のない間違い及び意見の相違は含まないものとする。

(1)捏造 データや研究結果を作り上げ、これを記録または報告すること。

(2)改ざん 研究資料、試料、機器、過程に操作を加え、データや研究結果の変更や省略により、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること。

(3)盗用 他人の考え、作業内容、研究結果や文章を、適切な引用表記をせずに使用すること。

 

このように,小保方さんの場合,「研究不正」があることが懲戒解雇の原因となりますので,これを「研究不正」に該当しないと争うことが戦略の第一歩です。

実際にも小保方さんは4月8日に不服申立を行ったと報道されています。  

②情状酌量について

また,懲戒解雇の原因があっても,情状酌量の余地がある場合は,懲戒解雇はされません。殺人犯であっても情状酌量の余地がある場合には死刑を免れるのと同じで,懲戒解雇という極刑も情状酌量の余地がある場合は回避されます。

小保方さんは,4月1日の時点では,一切謝罪もせずに憤慨していました。この点について,私はブログで「裁判官の心証を害する態度だ。」と指摘していましたところです。すると,小保方さんもまずいことに気付いたのか,一転,「世間をお騒がせし、共同著者に迷惑をかけ、若い研究者として至らなかった点はおわびしたい」などと謝罪の意向を発表するようになりました。労働問題に詳しい弁護士に助言を受けることができたのか,又は,小保方さん自身が懲戒解雇の危機にある自覚が遅ればせながらでたのでしょう。普通の人ならば悪いことをしてしまったという意識があるのであれば,最初から謝罪の意思を示しますが,小保方さんのような後出しの謝罪はまず戦略的なものと考えてよいのではないでしょうか。 

③職務継続の意思を示す

小保方さんは,今回の捏造騒動の間,体調不良を理由に,理化学研究所へ出勤しておらず,いわば雲隠れしていると報道されています。
今までちやほやしてくれていた理研からは単独犯と断罪され,共同著者もさっさと謝罪及び論文撤回の意思が表明されており,小保方さんは,人間不信に陥っているのかもしれません(まあ,それだけの過ちがあったのですが・・)。コピペや捏造,改ざんの論文を書く研究者として烙印を押されていますので,同僚の研究者も誰も小保方さんに近づかないでしょう。このまま理研にいても孤立し,まともな研究生活は送れないことは目に見えています。にもかかわらず,小保方さんは「理研で研究を続けたい」などと発表しています。一体何を考えているんだ,と思う人がいてもおかしくありません。

私の見解では,これも小保方さん側の戦略でしょう。

小保方さんの雲隠れ状態は,有給休暇を消化して行われていると推測されますが,有給がなくなると,理研へ出勤しないことは単なる欠勤の継続ないし仕事をする意思が喪失していると後々裁判で認定されかねません。そこで,こういう場合は,「職務継続の意思」を表明するのがセオリーとなっており,これを行うことで意味も無く欠勤を継続している,働く気がない,などという使用者側の批判を回避することができます。

今回の小保方さんの「理研で続けたい」宣言もこの趣旨であると考えて間違いないでしょう。普通の神経の持ち主ならば,理研で研究は続けることは難しいのではないでしょうか。

 

おわりに

研究不正の判断や懲戒解雇処分が確定すれば,小保方さんの研究者としての人生は終わるといっても過言ではないでしょう。研究者としての生死をかけた闘いに,弁護士を4人も雇ったというのもあながち大袈裟ではないでしょう。

捏造や改ざんが表に出ていますが,最大の争点は,「STAP細胞」論文の再現性でしょう。理研は,今後1年をかけて研究チームに検証をさせると発表しています。STAP細胞の存在にかかわるデータに捏造があり,再現性がないことが明らかになった場合は確実に懲戒解雇は確定するでしょう。小保方さんの本当の闘いは,4月1日の理研報告の先にあるのです。

 

【関連リンク】
・ 懲戒解雇とは
・ 懲戒解雇への対応方法
・ 解雇で弁護士に相談したい場合なら


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