こんにちは。弁護士の吉村です。

本日も労働問題に関する実務について弁護士としてコメントをさせていただきます。
※本記事更新履歴・・最終更新日 平成26年4月10日(木)
平成26年3月23日初稿 4月1日(火)一部更新
 4月10日(木)一部更新

小保方 解雇
(時事通信社) 

本日の労働問題のトピックは,小保方晴子さんは理研から懲戒解雇されるか? です。

小保方さんらが本年1月末に英科学誌ネイチャーで発表した新型の万能細胞「STAP細胞」論文。“生物学の常識を覆す内容”,“夢の若返り”等明るいニュースとして話題を呼びました。
しかし,本年2月になり,理化学研究所(以下理研)に対し,発表された論文に疑義があるとの通報がなされ,理研は,調査委員会を設置し調査を開始しました。
そして,3月14日の中間報告を経て,平成26年4月1日,理研は,5つの調査項目中,2項目について画像の改ざん及びねつ造の研究不正があったと断じ,発表しました。 

この点について,野依理研理事長は,4月1日,「科学社会の信頼性を損なう事態を引き起こした」と謝罪を行い,関係者の処分は厳正に行うことを宣言しました。また,他の理研関係者は「論文の体をなさない」「科学者の良識からすると常道を逸している」「未熟な研究者」「不正と認められた場合は厳正に処分」などとコメントをしたと報道されています。
一方で,「画像転用や論文転用なんて些細なこと。そんなことを厳密にしたら日本の若い人が論文だせなくなる」「小保方さんへの嫉妬で潰したら可哀想」などという擁護・同情論もあるようです。小保方さん本人も4月1日付で「驚きと憤りの気持ちでいっぱいです」「理化学研究所に不服申立をします。」と文書で発表し,4月9日の記者会見でも,
「事実関係をよく理解されないまま不正と判定された。弁明と説明の機会を十分に与えてもらったら、間違いの経緯を理解してもらえると思う」などと争う姿勢を発表しました

では,科学者,研究者,学者が発表する学術論文において,盗用や剽窃,捏造などの不正行為があった場合,労働法的にはどのような対応となるのでしょうか?

 

ポイント(これだけ読めばOK)① 実務では,論文の捏造はもちろん,盗用・剽窃についても,所属する研究機関の信用を損なう重大な行為として重く処分され,懲戒解雇も例外ではない。
② 小保方さんは,他の研究者の論文を引用なく用いたことについては,研究不正はないと評価された。もっとも,不注意であることは否めず,一定の懲戒処分はありえる。また,改ざん(写真の切り貼り),捏造(別の実験の画像流用)は「不正行為」に該当し,懲戒解雇の原因となる。さらに,今後の検証において研究データを捏造し再現性のない論文であることが判明した場合は懲戒解雇処分は確実。
③ 共著者も小保方さんの論文をデータの正確性などの検証しなかった点に過失があり,一定の処分は避けられない。 


1 論文の盗用・剽窃ってそんなに悪いこと?

他人が書いた論文の一部を引用表示なく自分の論文の中に入れてしまうこと,はどの程度悪いことなのでしょうか?世の中では「コピペくらい,いいんじゃない?」などという意見もあるようですが,実際はどうでしょうか?

裁判例

論文の盗用に関する判例では,「そもそも,大学等の研究機関の目的とする学術研究とは,先行業績の上に新たな知見を積み重ねることであって,そのような新たな知見を生み出すことこそが正に研究者としての業績にあたるものであるから,研究者が,論文や著書等において,他者が既に発表した見解ないし知見を,自己が生み出したものであるかのように発表することは,当該先行業績を有する当該他者の研究者としての地位を侵害するばかりか,学術研究の健全な発展を阻害し,研究者間の秩序を害することとなるため,学術研究上の不正行為として厳に許されないことが明らかである」として,盗用・剽窃それ自体,非常に悪いことだ,判断しています(岐阜地裁平成23年6月2日判決 論文に計54箇所にわたる学術研究上の不正行為による執筆箇所があった事例で,執筆した大学教授を懲戒解雇し,それが有効と判断された事例)。 

公表されている過去の処分事例

また,新聞などで公表されている大学等の研究機関における論文盗用事案における処分が以下のとおりです。※1

 

  処分   件数(総数58件)
懲戒解雇 5
諭旨解雇 4
  論文撤回のみ   9
謝罪 5
調査中 7
引責辞任 2
停職1か月 1
停職3か月 6
停職6か月 3
依願退職 1
学位取消 9
除名 1
厳重注意 2
自主退職 2
訓告 1

 

これを見ると,退職に至るケースも例外ではなく,非常に重く処分されていることが分かります。

なお,処分の量定にあたっては,論文盗用の多さ・常習性や盗用した部分の論文の中での位置づけの重要度なども考慮されるようです。

 

2 捏造(再現性なし)は重く処分されるの?

では,データをでっちあげ再現性のない論文を発表するなどの捏造はどうでしょうか?

裁判例

比較的最近の裁判例では,東大元教授の多比良和誠氏が発表した論文が「再現性、信頼性はない」として懲戒解雇された事案で,「本件各論文は、いずれも再現性がないものであり、これらは科学学術論文であるから、これらを東京大学の教授である多比良が責任著者として作成、発表 をしたことによって、東京大学の名誉や信用が著しく傷つけられたことは明らかである」として東大の懲戒解雇を有効と判断しました(東京地裁平成21年1月29日判決 第二審も結論維持 上告)。

要は,捏造なんかやったら,所属機関の信用丸潰れ,ということです。

公表されている過去の処分事例

また,新聞などで公表されている大学等の研究機関における論文捏造事案における処分が以下のとおりです。※1

処分 件数(総数33件)
懲戒解雇 13
諭旨退職  1
除名  1
立証不能,処分なし  3
自主退職  1
論文撤回のみ  4
停職  3
訓告  2
学位取消  3
調査中  1
引責辞任  1

 

これを見ると,論文の捏造は,盗用・剽窃以上に解雇・退職を含む重い処分がなされているのが分かります。

 

3 小保方さんはどうなる?

(1) 論文撤回

まず,論文において研究不正が行われたほとんどのケースで論文撤回がなされています。

また,4月1日,野依理事長は,研究不正と確認された論文一篇については取り下げの勧告を行う旨発表しています。著者の一部も同意していると報道されています。
※記者会見では,小保方さんは,理研からの論文撤回の勧告を受け,その勧告を受けたこと自体は認めたが,撤回自体については同意しておらず,かつ,今後も撤回の意思はないと発表しました。 

 

(2) 論文盗用について→不正ではないにしても一定の懲戒処分はありえる

次に,論文盗用についてですが,理研の3月31日付の報告では,他の研究者の論文をコピペしたことは認められるが,コピペした部分の論文における重要性が低く,かつ,小保方さんが悪意をもってコピペしたとは言えず,また,他の部分についてはちゃんと引用していたことから,悪意ある盗用と断ずることはできず,不正行為とは断ずることは出来ないと評価しました。もっとも,理研は実験手順を正確に記載することは科学者の当然の義務であり、論文の引用に当たっては、該当論文の内容を正確に引用することが基本である」として,かかる基本を疎かにした小保方氏の落ち度はあると認定しました。
このような小保方さんの落ち度は,たとえ不正研究に該当しないとしても,理研就業規則が定める懲戒事由(第51条(8),(9))に該当し,譴責,減給,出勤停止などの懲戒処分を下されることは十分ありえます。
従って,小保方氏は,懲戒解雇まではなされなくとも,一定の懲戒処分は避けられないのではないかと思います。

 

(3) 改ざん,捏造について → あり。懲戒解雇相当

① 改ざん(写真の切り貼り)

理研の規程※2が定める「改ざん」研究資料、試料、機器、過程に操作を加え、データや研究結果の変更や省略により、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること」と定義されています。
「改ざん」をもう少し分析すると,次のように要素分解されます。
Ⅰ 客観的にデータ等の意図的な修正などの状態があること
Ⅱ Ⅰが「改ざん」と評価されること
Ⅲ 主観的に,Ⅰ,Ⅱの認識があること(「悪意」)


理研は,写真の切り貼りについて,Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ全て満たすので「改ざん」の不正行為があったと認定しました。
これに対し,小保方さんは,
 客観的にデータ等の意図的な修正などの状態があること→○認める
 Ⅰが「改ざん」と評価されること→× 争う。見やすくするために操作をしたが、操作を加えたからといって結果自体は何ら影響を受けないなどとして、改ざんには当たらないと主張しています。
 主観的に,Ⅰ,Ⅱの認識があること(「悪意」)→Ⅰの認識があったことは認めるが,Ⅱの認識は争う。

つまり,Ⅰ客観的事実関係は争いようがないので,Ⅱ評価=つまり意味づけについて争っているのです。
では,どちらが正しいのでしょうか?
小保方さんの言い分は,結果が正しいのだから,そのプロセスの説明部分で画像の切り貼りしたって問題ないんじゃない?というものです。しかし,科学論文という性質上,結果はもちろん,プロセスについても正確性,真実性が非常に強く要請されます。なぜなら,プロセスがいい加減ならば,結果について検証の仕様がないからです。こんなことは素人でも分かります。従って,小保方さんの反論は科学論文の性質を無視した荒唐無稽なものと言えるでしょう。
また,小保方さん側もこの反論がかなり厳しいものであることの認識がありますので,不服申立書でも「結果的に表示方法において不適切な面があった」などと自己弁護しており非常に歯切れが悪くなっています。

以上から,写真の切り貼りについては,再調査後も「改ざん」の不正研究との結論になるでしょう。

② 捏造(別の実験の画像の流用)

理研の規程※2が定める「捏造」データや研究結果を作り上げ、これを記録または報告すること。」と定義されています。
「捏造」をもう少し分析すると,次のように要素分解されます。
Ⅰ 客観的にデータ等が実験対象とは全く違うものが報告されていること
Ⅱ Ⅰが「捏造」と評価されること
Ⅲ 主観的に,Ⅰ,Ⅱの認識があること(「悪意」)

理研は,別の実験の画像の流用がⅠ,Ⅱ,Ⅲ全て満たすので「改ざん」の不正行為があったと認定しました。
これに対し,小保方さんは,
 客観的にデータ等が実験対象とは全く違うものが報告されていること→○認める
 Ⅰが「捏造」と評価されること→×争う誤った画像を使用したが、掲載すべき画像は、2年前の6月に撮影されており、存在しないデータや研究結果を作り上げた行為はなく、ねつ造には当たらない。
 主観的に,Ⅰ,Ⅱの認識があること(「悪意」)→争う。仮に「捏造」にあたるとしても,「単純ミス」であり,「悪意」はなかった

つまり,ここでもⅠ客観的事実関係は争いようがないので,Ⅱ評価=つまり意味づけとⅢ悪意について争っているのです。
では,どちらが正しいのでしょうか?

まず,Ⅱ「捏造」と評価できるか否かについては,さきほどの小保方さんの言い分と同じであり,
結果が正しいのだから,そのプロセスの説明部分で画像が別のものであっても問題ないんじゃない?というものです。科学論文においてこれは通用しないことは先ほど説明したとおりですので,まずⅡ「捏造」と評価されることは間違いありません。
問題はⅢ「悪意」があったか否かでしょう。
この点について小保方さんは,ラボミーティングなどでパワーポイントに貼り付けた画像を間違ってSTAP論文に付けてしまった,真正な画像はある,との反論でした。
しかし,非常に不合理な点が多く,信用できません
まず,真正な画像があるとのことですが,その真正な実験により作成された画像であることの資料(実験ノート)の存在が不明であること。真正が実験プロセスを経て作成された画像なのであれば,そのプロセスを詳細に記録した実験ノートがあってしかるべきです。しかし,存在するのか?との記者からの質問に「そのはずです・・・」などの非常に歯切れ悪い回答に終始し,かつ,あったとしても「第三者が見たときに十分な記載になっているかどうかは分からない・・・」との説明で非常に曖昧です。
また,そもそも別の実験の資料を,今回の重大な実験の資料に用いたというのも不自然極まりないと言えます。さらに,特に「急がなければならない事情はなかった」としながら,なぜSTAP論文作成の際に原データを確認しなかったのかについても明確な説明がなされていません。
以上から,「悪意」があったと認定されることは十分な理由があるといえ,再調査をするまでもなく「捏造」の研究不正もあったと結論付けることが可能でしょう。

③ 懲戒解雇か?
以上2点の研究不正をもって,懲戒解雇の合理的理由・社会的相当性という要件を備え,懲戒解雇は有効になしうると思われます。
ただ,労働裁判では労働者側優位な裁判官も多く存在しますので懲戒解雇をした場合,無効のリスクもあります。
そこで,理研としては,「STAP細胞の再現性」という最大の論点について検証を行い,この結論を待って,小保方さんを処分することになるでしょう。「STAP細胞の再現性」,この点に不正があった場合は,120%懲戒解雇は有効になるからです。
実験の再現性というSTAP細胞の存在の証明については,今回の3月31日付の理研報告書ではそもそも調査対象になっていませんでした

ただ,理研は,4月1日付けで「STAP現象の検証の実施について」との文書にて,今後1年くらいかけてSTAP細胞の再現性を検証すると公表しました。
小保方さんは4月9日の会見で「STAP細胞は存在します!」「自分で200回以上作成に成功している」と強弁していましたが,肝心の証拠については,全くといって良いほど提示されておりませんでした。実験ノートも公開しないとしています。まさに結論ありきで,科学にとって肝心のプロセス,証拠については触れられない,という一貫した態度を最後まで維持しておりました。 本当に怪しいとしか言いようがないですね・・。

(4) 共著者はどうなる?

共著者も一定の処分は免れないでしょう。
実際にも,3月31日付け報告書でも,若山さん,笹井さんらの共著者は, 「
データの正当性、正確性、管理について注意を払うことが求められていた」にもかかわらず,これを怠ったため,小保方さんの捏造を許すことになったとし,「その責任は重大」と断じています。責任著者でありかつ不正の首謀者である小保方さんほどではないにしても,他の共著者は,不注意さ(過失)について一定の処分は免れないと思われます。

(5) 小保方さんの対応(4/1時点で謝罪なし)→4/9会見では涙の謝罪

小保方さんは4月1日付けで自己のコメントを発表しました。
理研の調査結果には,「
驚きと憤りの気持ちでいっぱいです」と非難をし,また,「研究不正と認定された2点については,理化学研究所の規程で「研究不正」の対象外となる「悪意のない間違い」であるにもかかわらず,改ざん,ねつ造と決めつけられたことは,とても承服でき」ないとして,近日中に,理化学研究所に不服申立をすると宣言しました。ただ,小保方さんの反論は,要するに「悪気はなかった」「単純ミスでしょ」と言い訳するものに過ぎません。また,最も驚くべきことは,発表したコメントにおいて,一切謝罪の言葉が述べられていないことです。研究不正と評価されるか否か,悪気があったのか否かといったことは置いておくとしても,客観的事実として,修正した画像の論文への添付や全く違う実験条件の画像の取り違えがあり,これにより理化学研究所の信頼・社会的評価を低下させたことは間違いないでしょう。にもかかわらず,「私の不注意でご迷惑をおかけし誠に申し訳ありませんでした。」程度の謝罪の言葉の一つもないのは,ある意味凄いですね。反省の姿勢が全く示されていないからです。後々裁判となった際に,裁判官の心証が悪くなります。
と指摘していたら,4/9の記者会見に際しては,一転,涙ながらに謝罪をしていました。この点は,戦略的なものであることは,小保方晴子さん 謝罪「理研で研究続けたい」その真意は?をご参照ください。

 

※1 参照論文 菊池重秋「我が国における重大な研究不正の傾向・特徴を探る」別表
※2 
科学研究上の不正行為の防止等に関する規程

【参考サイト】
・ 懲戒解雇とは?
・ 職場外の非違行為で懲戒解雇できる?
 ・   解雇で弁護士に相談したい場合なら





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