新垣 解雇
こんにちは。弁護士の吉村です。

本日も労働問題に関する実務について弁護士としてコメントをさせていただきます。

本日の労働問題の実務トピックは,桐朋学園は新垣隆さんをクビに(解雇)できるか?です。時事ネタです。

既にマスコミを賑わしていることですが,全聾(ろう)の作曲家・佐村河内守(さむらごうち・まもる)氏が代表作を桐朋学園大非常勤講師の新垣隆氏に作曲してもらっていた,いわゆるゴーストライター問題がありました。新垣さんは2月6日都内で記者会見を開き,全容について告白しました。

このゴーストライター問題に関連し,新垣氏の勤務先である桐朋学園を「当然クビでしょ!」という意見もあれば,それに反対する声も多いようで,学生を中心に反対署名運動が展開されるなど,議論を呼んでいるようです。

では,実際のところ,桐朋学園は新垣氏を解雇できるのでしょうか?

※以下事実関係を仮定的に設定(新垣氏の記者会見を中心に報道機関の公表をソースにしていますが,正確性は保証の限りではありません。)

  • 新垣氏は桐朋学園大非常勤講師。「非常勤」であるので,桐朋学園との間で有期雇用契約を締結していると推測される。 
  • 新垣氏は,佐村河内氏の曲を担当した。報酬も約700万円ほど受け取っている。
  • 佐村河内氏は図表や言葉で曲のイメージを伝えてきたが,プロデューサーのような立場だった。佐村河内のアイディアを新垣が曲にして、佐村河内は自分のキャラクターを作って世に出した。

ポイント(これだけ読めば十分!)
① 有期雇用契約の期間途中であっても解雇を行うことはできるが、期間の定めのない労働契約(正社員)の解雇以上にハードルが高い。

② 
業務時間外の私生活上の問題行為については,雇用契約外の出来事なので,業務に影響を及ぼしたり、学校の信用を棄損するなど、職場秩序を撹乱する場合に限り,解雇などの不利益処分が可能となる。

③ 
新垣氏については,ゴーストライターとして楽曲を有償で佐村河内氏に提供しているが,それ自体は特に違法性はない。また,「全聾の作曲家・佐村河内守」をプロデュースしたのは佐村河内氏自身であり,そのような世間への売り込みに新垣氏は直接加担していない。また,自主的に公の場で真実を告白し,反省の弁を述べたこと,今後二度と同じ過ちを犯すとは考えられないこと,学生への音楽指導は非常に熱心に行っており,多くの学生が署名により寛大な処分を求めていること,等を総合的に考慮すれば,解雇は認められない。
 


 

 解   説 

1 有期雇用契約の期間中に解雇できるか?

契約期間途中で,労働契約を解約する使用者の意思表示は解雇であり,解雇権濫用法理等の解雇制限法理がストレートに適用されます。そして,その場合,期間の定めのない労働契約の解雇の場合に比べてより厳しく判断されるとされています。期間途中に解消する理由については民法628条の適用を受け,「やむを得ない理由」が必要とされます(労働契約法17条でも使用者の側からこの点を定め確認しています。)そして,この「やむを得ない理由」は,解雇権濫用法理における解雇の合理的理由の程度より厳しく判断されると解されます。つまり,正社員より解雇のハードルは高くなります。

 

2 私生活上の行為を理由に解雇できるか?

多くの会社の就業規則には,「会社の名誉・信用を毀損したとき」,「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」などといった懲戒解雇事由が定められています。但し,労働者が私生活上の非行を行ったからといって,一概に懲戒解雇ができるとは限りません。会社との雇用契約は就業時間中に限っての指揮命令関係が成立するにすぎず,就業時間外の労働者のプライベートな行動については原則と問題とすることができないのです。ただ,労働者は,雇用契約上に付随した義務として,使用者の名誉・信用を毀損しない義務が認められると考えられています。従って,労働者の私生活上の行為であっても,それが企業秩序に影響を及ぼすものである場合は,例外的に解雇の対象となるのです。

 

3 今回の新垣氏のゴーストライター問題

(1) ゴーストライターとしての問題点

まず,ゴーストライターとして楽曲を有償で佐村河内氏に提供しているが,それ自体は著作権法に抵触する訳ではなく,特に違法性はありません。実際にも,作曲家として活躍している人の中にも,第三者より楽曲を購入する人もいるでしょう。

 

(2) 「全聾の作曲家・佐村河内守」として世を欺いた点

「全聾の作曲家・佐村河内守」は,報道を見る限り,完全に佐村河内氏の自作自演です。私もNHKの番組は見ましたが,あたかも自ら作曲をしているかのような迫真に迫る演技でしたね。このようなプロデュースに,新垣氏は関与していなかったと考えられます。また「全聾の作曲家・佐村河内守」で売り抜いた利益は,佐村河内氏が基本的には手にしており,新垣氏に対しては微々たる対価しか支払われていなかったようです。このように利益の享有という意味でも,新垣氏は佐村河内氏のビジネスに直接的には関与していなかったと思われます。

 

(3) 桐朋学園の秩序を乱したか?

確かに,報道では桐朋学園非常勤講師としての肩書きが出ており,お騒がせはしたのは事実だと思います。しかし,上記のとおり新垣氏のゴーストライターとしての活動は法的には問題はありません。世の中の論調も,新垣氏を非難するものばかりではありませんし,桐朋学園の責任を問うという声も私が知る限り上がっていないようです。

自主的に公の場で真実を告白し,反省の弁を述べたこと,今後二度と同じ過ちを犯すとは考えられないこと,学生への音楽指導は非常に熱心に行っており,多くの学生が署名により寛大な処分を求めていること,など酌むべき事情も多くあります。

 

(4)結論

このような事情を総合的に考慮すれば,解雇は認められないと考えられます。
桐朋学園もHPで,「
今後、経緯や事実関係などを詳しく調査したうえで、厳正に対処いたします」 と明確に「解雇」と告げず慎重な態度をとっています。
こういう場合,実務的には,解雇はせずに,自主退職を促すのが一般的ですね。実際に一部報道では新垣氏が辞表を出したとするものがあります。 

 

【詳細な解説は公式サイト】

契約期間中に解雇できるか?」

逮捕された社員を解雇できる?


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