労働問題.COM|弁護士による労働問題(労働審判,労働組合)の解説 

解雇,残業代,派遣,非正規社員,労働審判,労働組合,訴訟,仮処分などの労働問題について経験豊富な弁護士が分かりやすい解説をしています。

2014年12月

こんにちは。弁護士の吉村です。

本日も労働問題に関する実務について弁護士としてコメントをさせていただきます。
本日の労働問題のトピックは,本日の労働問題の実務トピックは,【日テレ-女子大生内定取消訴訟】入社を認める和解勧告の理由です。です。


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東洋英和女学院大4年生の笹崎里菜さん(22)が日本テレビより受けていた内定を取り消されました。笹崎さんは内定取消を不服とし,日本テレビを相手に東京地方裁判所へ「地位確認請求」訴訟を提起しました。日テレ側は争う姿勢を示していましたが,一転,12月26日,東京地方裁判所で和解勧告がなされたとの報道がなされています。

笹崎さんの代理人緒方延泰弁護士は,「僕らの望んでいる方向に向かっている。年明けにはもしかしたら、僕らの希望する形で解決するかもしれない」「和解協議中なので、あまり詳しいお話はできない」と断りつつ「日テレさんから文書の形で和解案の提示があった」と明言。そして,「なぜすぐ和解が成立しないのかといえば、ひな鳥(笹崎さん)の毛をむしったから何らかの手を差し伸べようというご提案だったから」と比喩を用いて説明。「(日テレから)一定の負荷がかかった形の解決を求められている印象がある。僕らとしてはそういう形は受け入れられない。内定取り消しを撤回すればいいんだろうっていうことでは済まない」その上で「普通(の入社)より温かい手を差し伸べてもらって、優しく抱き上げて巣(局)に戻してもらいたい。我々としてはそういう趣旨の和解を目指している」と述べたとのことです。

「日テレはなぜ一転して入社を認める話をしたの?」「こんなに早い段階で和解勧告がなされることってあるの?」「笹崎さんの弁護士の比喩(ひな鳥の毛をむしる等)は何を意味しているの?」との疑問が出ています。それについて労働問題に詳しい弁護士としてコメントします。 

 

ポイント(これだけ読めばOK)① 早期の和解勧告の背景には,現時点で既に日テレ敗訴(内定取消は無効との判決が下される)可能性は非常に高いことがある。敗戦と分かっていながら続けることは日テレにとってマイナスでしかないからだ。
② 
日テレ敗訴を前提とした和解は,大きく2つの方向性がありえる。1つは,①入社しないことを前提とした金銭的解決。もう1つは,②内定取消を撤回し,入社を認める解決。
③ 
地位確認訴訟の和解は,95%以上のケースで①の金銭解決となる。日テレも入社しないことを前提とする金銭的解決を第一に望んでいたはず。しかし,今回は②入社を認める方向になっている。その背景には,笹崎さん側が①金銭的解決を断固として拒否していたことがあると推定される。
④ 
ただし,日テレは②内定取消を撤回し,入社を認めたとしても,笹崎さんをアナウンス局へ配属させる義務はない。もっと言えば,アナウンス局以外の部署へ配属させることも可能だ。笹崎さん側はそこを懸念している。アナウンサーになれないのであればこの闘いの意味がないからだ。
⑤ 
このまま入社してもアナウンサーにさせずに飼い殺しにされる位なら,やはり入社しない前提で金銭的な解決を選択する可能性もある。どっちにしても笹崎さんの希望は叶えられそうもない。
 

 

なぜこのタイミングで和解か?

まず,今回の訴訟は,日テレにとっては負け試合となることは明らかである。その点は弊ブログ「日本テレビによる女子大生のアナウンサー内定取消は有効か?」にて詳細に説明済みなのでそちらを参照頂きたい。

敗訴の可能性が高い現状では,このまま訴訟を続けることは日テレにとってマイナスでしかない。

①判決が出るのは約1年以上後。4月1日入社も叶わず,女子大生の人生を「ホステスのバイト歴は清廉性に反する」などという理由で台無しにしたことに社会的非難が高まる

②金銭的負担(長期化するほど,笹崎さんに払うお金は増える。弁護士費用も増える)

日テレほどの大企業になると,②金銭的負担というよりは,主に①イメージダウンの点がマイナスになるだろう。

そこで早期解決を図るためには和解しかない。

和解とは,当事者が譲り合って訴訟を終了させる方法で,裁判上の和解は裁判所の和解調書という公文書にまとめられ,確定判決と同じ効力を与えられる。 

なぜ日テレは入社を認めることにしたのか?

日テレ敗訴を前提とした和解は,大きく2つの方向性がありえる。

1つは,①入社しないことを前提とした金銭的解決。

もう1つは,②内定取消を撤回し,入社を認める解決だ。

地位確認訴訟の和解は,95%以上のケースで①の金銭解決となる。

日テレも入社しないことを前提とする金銭的解決を第一に望んでいたはずだ。裁判沙汰にまで発展した社員が入社しても,他の社員はやりにくしい,まさに腫れ物に触るような感じになってしまうからだ。

しかし,今回は②入社を認める方向になっている。その背景には,笹崎さん側が①金銭的解決を断固として拒否していたことがあると推定される。

裁判上の和解は,勝訴側にイニシアティブがある。つまり,今回のケースでは笹崎さんが首を縦に振る提案でなければ,和解は不可能だ
笹崎さんが金銭的解決を拒否している場合,②入社を認める方向での和解しかなかったのだ。

入社を認めても,アナウンス局へ配属させる義務はない!?

実は日テレは,②笹崎さんを入社させる方向で和解してもトラブルは回避できる。

アナウンス局以外の部署へ配属させることも可能なのだ。

今回,日テレが笹崎さんへ出した内定通知書には,「日テレへの入社」を認めることしか記載がない。「アナウンス局に配属され,女子アナウンサーとしての職種を専業する」ということは記載がなかったのだ。

つまり,笹崎さんが保障されたのは「日テレへの入社」までであり,「日テレに入社して女子アナウンサーとして仕事をしていくこと」ではないのである。

そうだとするとどういうことになるか?

日テレは笹崎さんを入社させ,集合研修を受けさせた後,例えば「君は,アナウンサーを希望しているようだが,北海道支局で営業をやってくれ。」などと辞令を出すことも十分可能なのだ

 

日テレが提示した和解案とは?

日テレは,提示した和解案は
「日テレが行った内定取消を撤回し,4月1日からの雇用契約上の地位を認める。」
という内容であったと推測される。つまり,アナウンス局への配属までは保障していない形での和解案の提案であったのだ。

だからこそ,笹崎さんの代理人弁護士は,「内定取り消しを撤回すればいいんだろうっていうことでは済まない」「普通(の入社)より温かい手を差し伸べてもらって、優しく抱き上げて巣(局)に戻してもらいたい。我々としてはそういう趣旨の和解を目指している」 という発言をしているのであろう。
つまり,
① 日テレが行った内定取消を撤回し,4月1日からの雇用契約上の地位を認める。
② 日テレは笹崎さんをアナウンス局へ配属し女子アナウンサーとしての職務が出来るよう保障する。
③ 日テレは,今回の一連の内定取消騒動について,笹崎さんに謝罪すると共に,笹崎さんが安心して入社して仕事ができるよう環境を整える

という解決まで望んでいるのであろう。

日テレは,懐の深いところを見せるべく,上記①~③の要望を受け入れることもありえる。 つまり,笹崎さんを女子アナとして登用し頑張ってもらうということもあるだろう。今回の一件で良くも悪くも知名度を得た笹崎さんも,ピンチをチャンスに変え,人気女子アナウンサーになることも不可能ではないはずだ。

しかし,日テレは,①は応ずるとしても,②や③まで応ずる義務はもともとないし,笹崎さん側も訴訟を続けて判決を得ても②や③まで保障する判決を得ることは不可能だ。
とすると,笹崎さん側は,日テレの単に入社だけを認める和解案に応じざるを得ないという,勝訴者でありながら苦渋の選択を強いられる可能性もありえるのだ。

このように苦渋の選択となる理由は,労働法では,労働者が使用者に対して自分がやりたい仕事をやらせるよう求める権利を保障していないといことに尽きる。 例外的に保障されるは,雇用契約の最初から職種を特定して契約している場合等に限られ,例えば専門職スペシャリストをヘッドハンティングして中途採用するような場合に限定される。新卒一括採用の女子大生の場合,職種を特定しているケースはまずない。 笹崎さんも内定通知書には「女子アナウンサー」という職種は限定されていなかった。

今後の展開

日テレが笹崎さん側の要望を認めればよいが,入社だけを認めるような場合,笹崎さんは4月以降入社できたとしても,どこに配属されるかは不明だ。アナウンサー以外の雑用をやらされ飼い殺しにされている可能性も大いにある。だとすれば,今回の急転直下の入社を認める和解について喜んでばかりもいられない。 考え方によっては,入社をしない前提で,がっぽり解決金をとって,別の進路を進むという方がよかったのかもしれないのだ。

笹崎さん側は法的に女子アナウンサーにさせることを日テレに強制できないのであれば、事実上の強制をするしかない。つまり、マスコミを利用して、女子アナウンサーにさせないのは酷い、という世論をつくって日テレを追い込むしかないのだ。笹崎さん側代理人のマスコミへの対応はこのような意図がある。マスコミを巻き込んだ論戦が功を奏するか?が鍵になるのかもしれない。


 

【参考サイト】
・ 新卒の内定取消
 ・   解雇で弁護士に相談したい場合なら


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こんにちは。弁護士の吉村です。

本日も労働問題に関する実務について弁護士としてコメントをさせていただきます。

小保方 退職
 


本日の労働問題のトピックは,
小保方晴子さん,退職です。

いわずとしれた「STAP細胞」論文問題。平成26年4月1日,理研は,画像の改ざん及びねつ造の研究不正があったと断じ,発表しました。その後,小保方さん自らも加わって,STAP細胞の再現性について検証が進められていました。しかし,10ヶ月以上経過しましたが,結局再現出来ず,懲戒解雇必至な状況になり,今般小保方さんから退職の意向がだされ,理研も受理しました。 


科学者,研究者,学者が発表する学術論文において,盗用や剽窃,捏造などの不正行為があった場合,労働法的にはどのような対応となるのでしょうか?どうして小保方さんは退職したのでしょうか?

 

ポイント(これだけ読めばOK)① 実務では,論文の捏造はもちろん,盗用・剽窃についても,所属する研究機関の信用を損なう重大な行為として重く処分され,懲戒解雇も例外ではない。特に捏造(再現性なし)が最も重く処分されている。
② 小保方さんは,論文の改竄のみならず,結局,再現性の部分においても捏造があったと評価された。ここで懲戒解雇はほぼ確実な状況となった。
③ 懲戒解雇を回避する手段は2つ。1つ目は争うこと。2つ目は懲戒解雇される前に辞めること。STAP細胞を再現できず争うことは出来ない以上,小保方さんは辞めるしかなかった。 
④ 理研は,退職届を受理せずに,懲戒解雇を行うということも出来た。しかし,理研はそうせずに退職を承認した。これに対しては,「懲戒処分の結論を出す前に退職を認めるのはおかしい」との批判も出ている。理研の温情的措置といえる。 


1 捏造(再現性なし)は重く処分されるの?

では,データをでっちあげ再現性のない論文を発表するなどの捏造はどうでしょうか?

裁判例

比較的最近の裁判例では,東大元教授の多比良和誠氏が発表した論文が「再現性、信頼性はない」として懲戒解雇された事案で,「本件各論文は、いずれも再現性がないものであり、これらは科学学術論文であるから、これらを東京大学の教授である多比良が責任著者として作成、発表 をしたことによって、東京大学の名誉や信用が著しく傷つけられたことは明らかである」として東大の懲戒解雇を有効と判断しました(東京地裁平成21年1月29日判決 第二審も結論維持 上告)。

要は,捏造なんかやったら,所属機関の信用丸潰れ,ということです。

公表されている過去の処分事例

また,新聞などで公表されている大学等の研究機関における論文捏造事案における処分が以下のとおりです。※1

処分 件数(総数33件)
懲戒解雇 13
諭旨退職  1
除名  1
立証不能,処分なし  3
自主退職  1
論文撤回のみ  4
停職  3
訓告  2
学位取消  3
調査中  1
引責辞任  1

 

これを見ると,論文の捏造は,盗用・剽窃以上に解雇・退職を含む重い処分がなされているのが分かります。

 

2 小保方さんはどうして退職したの?

(1) 懲戒解雇を回避する方法

まず,懲戒解雇を回避する方法は一般に2つあります。

① 懲戒解雇を争うこと!
② 懲戒解雇がなされる前に自ら辞めること!

です。

(2) ①懲戒解雇を争う方法

懲戒解雇は,普通解雇に比べて極めて厳格な要件の下その有効性が判断されます。たとえ就業規則の懲戒解雇事由に形式的には該当したとしても,具体的事情のもとで使用者の懲戒権の行使が客観的に合理的理由を欠いており,社会通念上相当として是認することが出来ない場合には権利濫用として無効とされるのです(労働契約法15条,同法16条)。

しかし,
今回,論文の盗用・改竄問題に加え,そもそもSTAP細胞が再現出来なかったという致命的な問題がありますので,懲戒解雇のハードルがいくら高いといっても懲戒解雇を争うことは難しいでしょう。

(3) ②懲戒解雇される前に辞める方法

懲戒解雇は,雇用契約が存続していることを前提に行えるものです。つまり,退職して雇用契約が消滅した後は行えません。

そこで,懲戒解雇をされる前に辞める,という当たり前の方法があるのです。

ただし,退職願いが出されていても、すぐに退職の効力が当然に発生する訳ではありません。
民法第627条によって、特約がない限り①原則として2週間を経過したとき、②月給者の場合には、賃金計算期間の前半に申し入れたとき、次期の初日をもって雇用契約は終了することになります。

つまり,理研は,退職を承認せず、懲戒解雇をすることも可能だったのです。

今回,理研は小保方さんの退職を承認しました。

これに対しては,「理研は懲戒処分の結論を出す前に退職を承認すべきではなかった。真相解明及び懲戒処分を実施しないと再発防止にならない」との批判もありえます。

結局は,小保方さんの将来を考慮しての温情措置なのだと思います。




【参考サイト】
・ 懲戒解雇とは?
・ 退職届けを提出した後に懲戒解雇することはできるか?
 ・   解雇で弁護士に相談したい場合なら





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