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2014年05月

弁護士の吉村です。

本日も労働問題について弁護士として解説を行います。

今回は,小保方さんが理化学研究所の懲戒委員会へ提出した弁明書について解説します。

 

ポイント(これだけ読めばOK)① 弁明書とは、懲戒処分を受ける労働者が、懲戒処分を回避するべく弁解を記載した書面
② 
小保方弁護団の弁明書は、理研が行った不正行為の認定に対する不服申し立て・反論と同じ内容であり、認められる可能性は低い。
③ 
不正研究をしたことを前提に、諭旨解雇又は懲戒解雇も十分ありえる。

 

弁明書とは?

懲戒解雇や諭旨解雇の懲戒処分は,労働者の規則違反行為に対する制裁として行われます。制裁という性質上,慎重に手続が行われるのが通常です。そこで,会社(又は懲戒委員会を設置する会社では懲戒委員会)が労働者に対し懲戒処分を実施しようとする場合,対象となる労働者に対し弁解の機会が与えられるのが通常です。弁解の機会を与えられた労働者が会社や懲戒委員会に対し提出する弁解の文書が弁明書です。懲戒処分を回避したい,又は出来るだけ軽い処分にしてもらいたい労働者は,適切かつ有効な弁明書を会社(懲戒委員会)に提出することが重要になります。

 

小保方弁護団の弁明書の概要

・調査委員会による認定判断は、研究不正の解釈及び事実認定を誤っており、調査及び再調査開始審査の過程にも重大な手続き違反がある。

・このような調査委員会の認定判断を前提に、懲戒委員会が「諭旨解雇」や「懲戒解雇」が相当であると判断した場合、その懲戒処分は違法となる。

・STAP論文で指摘された画像の加工などは「科学者として不適切な行為」であったことは小保方氏も深く反省しており、一定の処分がなされることはありえるが、「諭旨解雇」や「懲戒解雇」は重すぎる。

 

小保方弁護団の弁明は通用するか?

 

1 「改ざん」「捏造」の定義を狭く解釈するべきとの弁明

小保方氏の主張:「改ざん」については、研究資料に操作が加えられてデータの変更が行われたとしても、研究活動によって得られた結果が偽装されていなければ改ざんにあたらない。「捏造」についても、研究自体が架空であるような場合に限って捏造にあたる。このように狭く解釈するべきである。

 

コメント:小保方氏の主張は相変わらず、結果が正しいのだから,そのプロセスの説明部分で画像の切り貼りしたり、全く関係ない画像が貼ってあったとしても問題ないというものです。しかし,科学論文という性質上,結果はもちろん,プロセスについても正確性,真実性が非常に強く要請されます。プロセスがいい加減ならば,結果について検証の仕様がないですし、正確なプロセスの積み重ねこそが科学の根幹をなすからです。

従って、小保方氏の主張はかなり無理があり、通用しません。

 

2 「悪意」の定義を狭く解釈するべきとの弁明

小保方氏の主張:「悪意」とは、「データの誤った解釈へ誘導する危険性」の認識では足りず、「研究活動によって得られた結果等を真性でないものに加工する」認識まであって初めて悪意があったと狭く解釈するべき。

コメント:「悪意」というのは、不正研究を行ったことを認識していることを意味しますので、結局「不正研究」をどう解釈するかと関連します。先ほどのとおり、小保方氏は、「プロセス」に虚偽を加えること自体は「不正研究」ではないと考えるので、結果が間違っていない以上、悪意はないと言い張っているのです。しかし、「プロセス」の改変自体、「研究不正」にあたることは言うまでもありませんので、小保方氏の「悪意」の捉え方は採用されません。よって、小保方氏は「悪意」があったことは間違いなく認定されるでしょう。

 

なお、理研は、小保方氏の「悪意」を認定する事情として、小保方氏がSceince誌の査読者からの指摘(改ざん)を受けていたことをあげていました。これに対し、小保方氏は、Sceince誌のエディターから論文を却下し、かつ、再投稿も許可しないとの結果を伝えられたので、査読者からの指摘は一切確認しておらず、改ざんにも気がつかなかったと弁解しています。しかし、これも自分が出した論文が却下され、その理由を確認しない科学者などいるでしょうか?常識的に考えられません。当然、小保方氏のこの反論も認められないでしょう。

 

3 その他

その他、再調査をしなかったのは間違いであるとか、STAP細胞の再現性に係わる検証実験の結果を待って判断するべきであるとか、再調査委員の中にも改ざんの疑いがあったとか、細かい指摘をしていますが、いずれも小保方氏が行った不正行為との関係では本質的な反論にはなっておらず、見るべきものはありません。

 

4 結論

よって、小保方氏の弁明書の提出によっても、これまでの理研の不正研究の判定が覆る可能性は低く、「諭旨解雇」又は「懲戒解雇」などの重い処分も十分ありえるでしょう。


【関連記事】
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弁護士の吉村です。

本日も時事的な労働問題について弁護士として解説いたします。


小保方晴子
((c)日刊ゲンダイ)

本日は,STAP細胞の論文不正問題について,理化学研究所(理研)が小保方氏側が求めていた再調査を行わないとの結論を出したことによる,今後の紛争の行方について説明したいと思います。
 

ポイント(これだけ読めばOK)① 小保方さんの研究不正問題については,画像の修正や別の画像の貼り付けなどの不正と評価される客観的事実があり,小保方さん側でそれを覆す証拠を提出できなかったので,理研が研究不正の認定を確定させたこと自体は法的には問題はない。研究不正の認定確定それ自体については,小保方さん側は訴訟などにより争うことも出来ない。
② この問題は,今後は,理研による懲戒処分の可否・是非というステージで議論がなされる。理研としては,懲戒解雇・諭旨退職も含む厳しい処分も可能であるが,小保方さん側が訴訟等により争ってくる可能性が高い。
③ ただ,1年更新の契約社員である小保方さんは,どのみち来年の期間満了による契約終了が確実であり,懲戒解雇等を争っても来年の契約期間までの地位しか保全できないのが原則。その意味で,小保方さんが懲戒解雇を訴訟等で争うメリットは実はあまりない。
④ 退職した後であれば,懲戒処分も受けることはない。小保方さんは,懲戒処分を受ける前に,退職届を出して,処分から逃げることも戦略的にはありえる。

 

研究不正認定それ自体は訴訟で争えない

STAP細胞の論文を巡り、理研の調査委員会が改ざんとねつ造に当たる不正行為を小保方さんが行ったと認定したのに対し、小保方さんは調査のやり直しを求める不服申し立てを行い、調査委員会が再調査するかどうか審査していました。小保方さん側は各種資料を提出しましたが,理研は,5月7日,追加の資料でも不正の認定を覆す新たな証拠は示されなかったなどとして再調査の必要はないとする結論を出しました。

この結論に対しては,小保方さん側は訴訟などの対抗策をとることは出来ないでしょう。

なぜなら,理研が行ったのは,不正研究の「認定」という事実上の行為に過ぎず,「処分」という法的行為ではないため,その無効などを求めて争うことは原則的に出来ないからです。また,理研の不正研究の認定をもって,名誉毀損の不法行為であると争うことは不可能ではありませんが,客観的に画像の修正・入れ替えの事実がある以上,実際に裁判所に認容されることは非常に難しいといえ,現実的ではありません。

 

小保方さん側の代理人弁護士は,理研の結論は「到底承服できるものではない」と述べつつも,「懲戒処分が出た場合、処分の取り消しを求める裁判を起こすことも視野に対応を検討する」と述べています。このことは,懲戒「処分」が出ていない現時点では,裁判で争う余地が乏しいことを意味しています。

 

今後の主戦場は,懲戒委員会の場

 

今後の流れ

 

不正認定の確定を受け,今後,理研は,懲戒委員会を設置し,小保方さんの処分を検討することになります。

 

研究不正あり(確定)

↓ 

懲戒手続(就業規則50条~)

懲戒委員会開催(就業規則54条)

小保方氏への弁解手続

懲戒処分の決定

↓ 小保方氏が不服ある場合

再審査の請求(就業規則55条)

↓ 再審査却下

懲戒処分の確定

↓ 懲戒処分を争う場合

懲戒処分無効確認の訴訟提起

 

小保方さんの弁解

 

この懲戒委員会において,小保方さんには反論の機会が与えられるのが通常で,小保方さんは,その場で,弁解や情状酌量などを求めていくことになります。

具体的には,

研究不正にあたらないこと,仮にあたるとしても「重大」な不正ではないこと

情状酌量の余地があること

(例)

・極めて多忙ななかで差し替えを忘れたミスでありやむを得ないこと

(注:但し,4月の記者会見では,小保方さんは特に急ぎという事情はなかったと述べていましたので,信憑性はありません。)

・不正をして真実の研究成果を偽ろうとした「悪意」はないこと

(注:「悪意」とは研究不正の客観的事実及び評価を知っていたことと定義されますので,この意味での悪意は否定し難い。それ以上の「悪意」がないとしても,研究機関としての秩序を著しく乱したことは否定できない。従って,弁解としては意味がない。)

 

懲戒解雇・諭旨解雇も可能

不正研究は重く処分される

不正研究(捏造)は,実務上,懲戒解雇等の処分も例外ではなく,非常に重く処分されるのが実情です。研究機関における不正研究は,その機関への信頼を著しく損ねる行為であり,かつ,科学への冒涜でもあります。重い処分がなされるのもやむを得ないでしょう。

不正の程度によっては懲戒解雇が無効となるリスクがある


ただし,裁判例上,懲戒解雇等が有効になっているケースは,研究ノートを改竄し,再現性のない研究成果を発表した場合など,不正研究の中でも重い事案になっています。今回,理研が研究不正の認定をしたのは,研究ノートやSTAP細胞実験の再現性は対象となっていませんでした(但し,現在,理研にて調査中です。)。つまり,研究不正の中にも程度の問題があり,その中でも重い程度の不正については懲戒解雇等の重い処分が選択されていますが,そこまで重い程度に達しない場合は,懲戒解雇等の処分が「重すぎるので無効」と判断されるリスクがあるのです。

この程度が重いか否かは,不正の論文の中における位置付け,重要性,不正の程度,同種事案での理研における処分実例などを総合考慮して決められることになります。

今回の小保方さんの研究不正は,科学論文の性質を無視したものであり,許される内容ではないことは明らかです。但し,STAP細胞の再現性に直接関わる部分ではありませんでしたので,その点が裁判になって争われた場合,「そこまで重い研究不正ではなかった。ゆえに,懲戒解雇は重すぎるので無効」と判断されるリスクは残ります。

STAP細胞の再現性について不正が認められれば懲戒解雇は確実


他方で,現在も調査注のSTAP細胞の再現性の問題については,小保方さんにて非常に杜撰な研究ノートしか残していなかったことが明らかになっており,研究ノートなしで再現性のない成果を発表し不正を行ったと別途認定される可能性もあります。つまり,この調査を待って,再現性についての不正を認定すれば,ほぼ間違いなく懲戒解雇などの重い処分も有効となると思われます。

小保方さんは契約社員なので争うメリットはない!?

懲戒処分が出されるのは,おそらく6月頃と思われますが,それに対し,小保方さんは処分無効確認の訴訟を提起することが可能です。

しかし,小保方さんは,1年ごとに更新される任期付きの職員ですので,おそらく来年の任期満了時に契約期間は更新されることはないと強く予想されます。理研は,きちっと契約更新を管理している場合,来年度の更新拒否(雇い止め)は有効になる可能性が非常に高い。つまり,小保方さんはどのみち理研に勤められるのは来年の契約期間までに限られます。理研に定年まで勤められるのであれば別ですが,来年までしか勤められないのに,裁判までして,理研の処分を争うメリットが果たしてあるのか疑問があります。裁判は,早くても結論が出るまでは1年以上はかかるでしょうから,懲戒処分を争っているうちに,理研との雇用契約は終了してしまう可能性が高いのです。

それならば,他の研究機関から誘われているうちに,さっさと理研に見切りをつけて転職するということも合理的な選択肢となりえるのです。

 

退職届の“出し逃げ”も戦略の一つ

懲戒処分は,従業員との雇用契約が存在していることが前提となりますので,退職した従業員に対して懲戒処分を行うことは原則として出来ません。

懲戒処分が出される前に,他の研究機関から誘われたからといって理研にさっさと退職届を出せば,理研との雇用契約は終了し,それ以後,懲戒処分を受けることもありません。

つまり,退職届を出して,逃げることも可能なのです。

このまま理研に残ることは法的に難しいですし,不名誉な懲戒処分を受ける前に,新天地を求める,という戦略も合理的な選択肢としてあるでしょう。

 

小保方さんの代理人は5月9日、報道陣に対し「研究生活を続けるため、あらゆる可能性を探っている。理研の対応次第では、訴訟提起や、自ら理研を辞めて他の研究機関に移ることも可能性の一つ」と述べたとのことですが,その背景は上記のような事情であると推測されます。

【参考記事】
・ 懲戒解雇への対応方法
・ 退職届を出した後,懲戒解雇ができるか


【ご相談等】
・ 解雇について弁護士へのご相談
・ 会社側で労働審判について弁護士へのご相談


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