労働問題.COM|弁護士による労働問題(労働審判,労働組合)の解説 

解雇,残業代,派遣,非正規社員,労働審判,労働組合,訴訟,仮処分などの労働問題について経験豊富な弁護士が分かりやすい解説をしています。

2014年03月

こんにちは。弁護士の吉村です。

本日も労働問題に関するホットな最新判例について弁護士としてコメントをさせていただきます。

本日の労働問題の判例は,社員が会社の営業機密が保存され業務上使用されていたハードディスクを無断で持ち帰ったことを理由とする解雇が無効となった事案です。
情報漏洩 懲戒解雇

石油等を販売する株式会社に勤めていた社員が,会社の営業機密が満載のハードディスクを上司に無断で持って帰りました。
このハードディスクには,会社の取引に関する営業機密(取引先,受注数量,単価など)のデータが過去数年分保存されていたのです。
もしこのようなデータが競業他社などに漏れたら,会社が営業的な大打撃を受ける可能性は非常に大きい状況でした。

そこで,会社は,「会社の業務上の機密及び会社の不利益となる事項を外に漏らさないこと」という就業規則の規定に違反するとして懲戒解雇(及び予備的普通解雇)をしました。

しかし,裁判では無効と判定され労働者が勝訴しました。その理由は? 

 

ポイント(これだけ読めば十分!)
① ハードディスクを持ち帰ったとしても,その中の営業機密情報を「漏らした」ことを会社が証明できない以上,規定違反にはならない。
② 
また,情報漏洩していない以上,重大な規律違反とは言えず,もともと解雇は出来ない。
③ 
懲戒解雇としてはもちろん,普通解雇だとしても無効。


 判 例 情 報 

乙山商会事件

東京地裁(平成25年6月21日)判決

労働判例 1081-19

 

 事 案 の 概 要 

【当事者】

X(原告):男性従業員。H17 正社員採用

Y(被告):石油製品その他燃料の販売等を業務とする株式会社。

【事案の概要】

H17.春 Xは、採用された。その後,自費でハードディスクを購入し,業務用データのバックアップ用に使用していた。
H24.1.10 Xは,ハードディスクを上司の許可無く持ち帰った
  1.13 YはXに事情聴取
  1.18 YはXを懲戒解雇処分
 

 結   論 

請求認容(慰謝料請求は棄却)(労働者勝訴)

 

 解 説 

1 労働者は秘密保持義務を負っている


まず,労働者は,会社との雇用契約に基づいて,会社の秘密を保持する義務があります。そして,多くの会社の就業規則において,労働者に対し秘密保持義務が課され,あるいは名誉・信用の失墜行為が禁止されており,これらの違反は懲戒処分や解雇の理由となり得ます。

 

2 でも,情報を持ち出されただけでは解雇することは難しい


労働者が会社の機密情報を持ち出した場合,会社は,就業規則に基づいて一定の処分を行うことは出来ますが,持ち出しだけでは解雇をすることは難しいのが現状です。

 

一般的には,解雇が出来るのは,

①労働者が機密情報を

②第三者に開示する意思で

③第三者へ開示した,又は,それと同等の危険にさらした,ないしさらそうとした

という要件を満たす必要があり,かつ,この点を会社が証明できなければなりません。

 

この証明は,会社としてはかなり難しく,解雇処分の前において慎重な確認作業が必要となります。 

3 会社の情報管理が重要!

 

会社としては,何よりも事前の情報管理体制の構築が大切です。

 

今回ご紹介した事案では,従業員が持ち帰ったハードディスクはそもそもその従業員の私物であり,かつ,会社もそのことを把握していませんでした。これだけでも会社の情報管理体制がなっていないことが分かりますね。

 

(1) 情報管理体制

 

まず,そもそも業務用のデータは会社が提供するハードディスクやパソコンにて管理するべきであり,従業員個人のパソコンやハードディスクは持ち込み自体禁止するべきでしょう。

 

会社の情報を,従業員個人のPCなどに保存させていては,会社にて情報の管理が徹底できません。特に,従業員が退職した後に,情報の行方が分からなくなってしまいます。

 

(2) 情報管理のルール

また,就業規則などにおいて,情報管理のルールをしっかり明記し,労働者に周知徹底することも大切です。

4 (おまけ)懲戒解雇には普通解雇が含まれないのが原則

 

今回ご紹介した事案において,会社は当初は懲戒解雇を行っていたのですが,裁判の時点で,「懲戒解雇には普通解雇が含まれる!」と主張していました。裁判ではこれは認められませんでした。

 

会社がこのような主張を行った理由は,解雇が有効となるためのハードルの高さが

 

懲戒解雇>普通解雇

 

であるため,「懲戒解雇では負ける。普通解雇にすりかえなければ!」という発想だったのでしょう(裁判では,よくある主張なんですが,かなり苦しい主張です。)

 

この点について,裁判所は,「懲戒解雇は,企業秩序違反に対する制裁罰として普通解雇とは制度上区別されたものであり,実際上も普通解雇に比し特別の不利益を労働者に与えるものであるから,懲戒解雇の意思表示はあくまで懲戒解雇として独自にその有効性を検討すべきであり,懲戒解雇の意思表示を事後的に普通解雇の意思表示に転換することは許されないと解すべきである。もっとも,使用者は,同一の非違行為につき,普通解雇事由にも該当するとして予備的に普通解雇の意思表示をすることは妨げられない。」とした上で,当事者の合理的な意思解釈として,「本件通告書による解雇の意思表示に予備的な普通解雇の意思表示が含まれていたと評価することはできない。」と判示しています。

 

以上です。

【関連サイトの記事】
・ 懲戒解雇とは?
・ 懲戒解雇への対応方法
・ 情報漏洩で懲戒解雇できるか?
 


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こんにちは,弁護士の吉村です。

本日も労働問題に関する実務について弁護士としてコメントをさせていただきます。

本日の労働問題のトピックは,行政指導を受けたドワンゴの受験料は労働法的にどうなのか?です。身近な時事ネタを通じて勉強しましょう。

 

既にマスコミに出ていますが,niconicoを運営する大手IT企業ドワンゴが入社希望者から受験料(2525円)を徴収する制度を導入したことが問題になっていました。

 

この件については,「今の就職活動は無料だから手当たり次第エントリーして内定した所に入社してたけど、「自分がどこに入社したいのか」を学生がもっと真剣に考える事になると思う。」などと賛成する意見がある一方,「収入の無い子供から金巻き上げるのやめなさい。プレミ解約すんぞ!」などという反対意見も多くありました。

 

そして,今年2月中旬頃,厚生労働省がドワンゴに対して,行政指導をしたとの報道がなされました。 


来春卒業予定の大学生らの採用を巡り、大手IT企業「ドワンゴ」(東京)が入社希望者から受験料を徴収する制度を導入した問題で、厚生労働省東京労働局が「新卒者の就職活動が制約される恐れがある」として、職業安定法に基づき、次の2016年春卒の採用から自主的に徴収をやめるよう行政指導をしていたことがわかった。

読売新聞


では,実際のところ,ドワンゴの受験料制度は労働法的にどうなのでしょうか?
 

ポイント(これだけ読めば十分!)

①ドワンゴの受験料制度は労働法的にはグレー。

②今回の厚労省労働局の「行政指導」は,実際には「助言」にとどまる。つまり,受験料制度が「違法」であることを前提とした改善命令ではない。

③ドワンゴの受験料制度には合理的理由もありそう。ただ,企業又は経営者として尊敬はされない。

 

 

 解   説 

1 受験料徴収制度は違法か?

 

(1)法律的には職業安定法39条の問題

まず,企業が採用選考に際して受験料をとってよいのか否かについては,職業安定法39条にひっかかるか?が問題となります。職業安定法というとハローワークなどをイメージするかもしれませんが,いま話題の派遣法を理解する上では必須の内容を定めていたりして,重要な法律です(この点は後日解説します。)。

 

ここで職業安定法39条は,「労働者の募集を行う者は、募集に応じた労働者から、その募集に関し、いかなる名義でも、報酬を受けてはならない。」と定めています。

 

この規定は,企業が募集にかこつけて労働者から不当にカネを巻き上げることを禁止し,労働者の募集へ応募するチャンスを奪うことを禁止するためのものです。

 

従って,ドワンゴの受験料制度がこれに違反しないかが問題となるのです。

 

(2)ドワンゴの受験料制度は違法とは直ちにいえない


【 
ドワンゴの受験料制度の概要 】

① 新卒採用で導入 金額は2525円 
② 1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)に限る

③ 目的は「本気で当社で働きたいと思っているかたに受験していただきたいから」

④ 手数料は全額ドワンゴ負担。受験料は奨学制度の基金等へ全額寄付予定。

⑤ 説明会,プレエントリー段階では発生せず。エントリーの際に発生。

⑥ 企業の側も受験生が多すぎて、採用の手間ばかりが増えて、本当に必要な人材を見極める十分な時間をかけることが難しい


とのことです。

 

金額2525円はそれ単価では高いとはいえない

説明会やプレエントリーの段階では受験料は発生せず,かつ,採用試験等のコスト自体はドワンゴが負担すること,

そして,受け取った受験料は「独立行政法人日本学生支援機構」へ全額寄付すること,

からしますと,

企業が募集にかこつけて労働者から不当にカネを巻き上げる

労働者の募集へ応募するチャンスを奪う

とまでは直ちに言えず,職安法39条に違反するとはいえないとも思われます。

 

他方で,

受験料をとること自体,学生には負担感がある

寄付するからといって,学生からカネを取ることには変わりない

採用試験の費用はドワンゴが負担するとなると,純粋に「カネ」で学生を本気を試すことになり,それ自体果たして合理性があると言えるのか

ということを考えると,職安法39条に実質的に違反するのではないかとも思えます。

 

つまり,違法とも適法とも言えない,「グレー」な状況にあります。

このようなスッキリしない状態ですので,ドワンゴは,今でも「受験料を取ることは白やで!」と強気に出ています。

 

2 厚労省の行政指導とは?

(1) 厚労省の解釈もグレー

では,職安法事案を取り扱う厚労省の見解は?

というと,よ~わからん,内部でも意見が割れている,とのことです。

つまり,厚労省もグレーだね,という見解なのです。

でも,厚労省としては,ドワンゴだけではなく他の企業もマネしたら,現状50~100くらいはエントリーする学生にとって過大な負担となるので,「新卒者の就職活動が制約される恐れがある」と雇用政策上の危機感を持っているようです。

 

(2) 厚労省の行政指導は,実は「助言」にすぎなかった

そこで,厚労省がとった苦肉の策が,今回の行政指導でした。

正確には,「職業安定法 第48条の2に基づき、2015年以降の受験料徴収の自主的な中止を求める旨の「助言」です。

 

この「助言」は,文字通りアドバイスに留まり,法的拘束力はありません。また,法律違反があったことを前提とするものではなく,「業務の適正な運営を確保するため」に行われるものに過ぎません。

 

(3) 助言を受けてもドワンゴは強気


法律違反と言われた訳では無く,かつ,助言に過ぎませんので,ドワンゴは強気な対応を続けています。

・入社採用試験に際して1人の受験生が100社以上もエントリーしている状況が正常であるとは言い難く、受験生、企業の双方にも大きな負荷がかかっておりこうした状況を解消すべきと考えています。
・お金を払える人だけが採用試験を受けられることで、収入格差によって就職の機会が奪われる可能性があるという指摘については否定しませんが、現在の弊社の受験料2,525円が収入格差により就職の機会を奪うほどの高額であるとは認識していません。また、将来的な可能性ではなく、現時点においても地方に在住する学生は交通費などの経費負担が大きいため首都圏の学生と比較して金銭的な理由からも就職の機会を奪われている状況にあると考えています。弊社が一都三県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)からのみ受験料を徴収するのは、この格差を多少なりとも軽減する狙いです。
・昨年以前と比較して、応募者の評価にじっくりと時間をかけられるようになり、また、昨年よりも応募者の質が向上していると感じています。こうした状況からも施策は成功しており、現段階では来年度も受験料制度を継続したいと考えています。

 

3 ただ,尊敬はされない

 

以上から,ドワンゴの受験料制度は労働法的には違法といわれるまでのものではなく,かつ,実際にエントリー数が減少し,ドワンゴいわく「応募者の質が向上している」とのことですので,一定の合理性もあったのでしょう。

 

でも,尊敬されないですよね。

企業が学生からカネとってふるいにかける,なんて発想は,斬新な発想でも何でもなく,ダサすぎてこれまで企業がやってこなかっただけじゃないですか?就職氷河期で買い手市場を逆手にとっているみたいで。
また,学生も好きこのんで100社もエントリーしている訳ではなく,それだけエントリーしてもなかなか内定を得ることが出来ない現状こそが原因なのではないでしょうか。
企業側の負担といっても,要は採用コストの問題でしょう。順調に収益を伸ばしているドワンゴが,学生に受験料を課して採用コストを削減しようとするというのもいかがなものでしょうか? 
敬意を失った企業から優秀な人材の一部は離れていくでしょう。結果として,削減コスト以上の価値を失うことになるのではないでしょうか。
いずれにしても,ドワンゴが生み出している素晴らしいコンテンツに比べると,非常に残念な制度ですよね。


以上です。

【関連リンク】
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