労働問題.COM|弁護士による労働問題(労働審判,労働組合)の解説 

解雇,残業代,派遣,非正規社員,労働審判,労働組合,訴訟,仮処分などの労働問題について経験豊富な弁護士が分かりやすい解説をしています。

2012年12月

本日は,高年齢者雇用安定法について。

同法は既に改正され,来年4月1日より施行されることはご存じの方が多いと思いますが,結局ポイントは何なの?となるとあまり明確なものは少ないと思います。

そこで,この点について説明します。

実務上,最大のポイントは,

継続雇用の対象を労使協定で定める基準によって限定できる仕組みを廃止する

ことにあります。

なぜなら, 大多数の企業がこの仕組みを採用しており,廃止に伴い,希望者全員の継続雇用をしなければならず,業務や人件費の配分など,システムを変更する必要がある企業が多いからです。

【改正の経緯】

従来、同法では企業に対し、65歳までの雇用を確保するため

(1)定年の引き上げ
(2)継続雇用制度の導入
(3)定年廃止

のいずれかの制度を設けることを義務づけていました。

そして,(2)継続雇用については、労使協定で定めた基準に達しない場合、希望者を雇用しなくてもよい規定がありました。

つまり,会社の方で,「人事評価C以上の人」「会社の健康診断を受け問題のない人」等の基準を設け,この基準に満たない人は継続雇用の対象外にできたのです。 
 

(2)雇用確保措置を導入している企業のうち82・5%が継続雇用制度を導入しており,また、そのうち半数以上が基準を設け,基準に該当する者のみを継続雇用しています。

過去一年間で基準に達しないことを理由に再雇用されなかった労働者は約7000人にも上ると言われています。

他方で,お国の財政難から,年金開始年齢が上げられ,来年2013年度からは,継続雇用を希望していても、基準に該当せずに雇用継続されなかった結果,雇用も年金もない無収入の期間が生ずる人もでてくると言われています。

いまの国の予算では,雇用も年金もない人達をフォローする制度を構築できない,だったら企業でもってよ,ということで,今回法改正がなされました。 

つまり,法律改正により、継続雇用の対象者を限定する仕組みを廃止することになったのです。

その結果,希望者全員が原則として継続雇用されることになり,例外的に,就業規則で定められた解雇・退職に相当する客観的、合理的な理由があった場合にのみ、継続雇用の対象外になります。

【実務上の対応】
このように(2)継続雇用制度を導入している企業は,原則として希望者全員の雇用を継続しなければなりません。つまり,これまでは定めた基準に従って,雇用継続しないでもよかった層の労働者も雇用継続しなければならないのです。

売上も伸び悩み,業務も増加しない中での人員の増加,つまり,金も仕事も増えないのに,余剰人員だけが増えてしまうという構造になります。

それに対しては,単純に,金(人件費)と仕事(業務)を分け合う(分配する)しか方法はないでしょうね。


公表されている,経営者がとる方策は次のようなものです。

1 高齢従業員の貢献度を定期的に評価し、処遇へ反映する 44.2%
2 スキル・経験を活用できる業務には限りがあるため、提供可能な社内業務に従事させる 43.6%
3 半日勤務や週2~3日勤務などによる高齢従業員のワークシェアリングを実施する 41.0%
4 高齢従業員の処遇(賃金など)を引き下げる 30.0%
5 若手とペアを組んで仕事をさせ、後進の育成・技能伝承の機会を設ける 25.8%
6 60歳到達前・到達時に社外への再就職を支援する 24.1%
7 60歳到達前・到達時のグループ企業への出向・転籍機会を増やす 22.7%
8 新規採用数を抑制する 16.9%
9 60歳到達前の従業員の処遇を引き下げる 13.3%
10 社内には高齢従業員に提示する業務がないため、従来アウトソーシシングしていた業務を内製化したうえで従事させる 11.7%
11 特段の対応はしない 9.4%
12 高齢従業員の勤務地エリアを拡大する 8.9%
13 その他 7.2%

 (出典:2012 年10 月25 日 日本経済団体連合会 「2012 年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」 「高年齢者雇用安定法の改正にともない必要となる対応(複数回答)」)

そして,先日出された2013年の春闘に向け、経営側の指針となる経団連の「経営労働政策委員会報告」原案では,


原案では13年4月の改正高年齢者雇用安定法の施行に伴い、65歳までの継続雇用の比率が現在の74%から90%に上昇した場合、総賃金額は今後5年間で2%押し上げられると試算した。

試算を踏まえ、企業の人件費を抑えながら雇用を維持するには「賃金カーブの全体的な見直しが考えられる」と指摘。

中高年を中心とする現役世代の賃金抑制を求めた。特に中高年の給与が年功的になっている場合には「仕事・役割・貢献度を基軸とする賃金制度に再構築していくことが考えられる」と提案した。」となっています。

以上,ざくっとした内容ですが,実務ポイントを示しました。

もう少し具体的に書式等にも踏み込んだ解説は追ってさせていただきます。

~おわり~
 




 













 




 

異常行動の継続,セキュリティ規程違反を理由とした普通解雇を有効とした事例

アイティフォー事件
東京地判平成24.7.10 WEB労政時報12.9.18
事案の概要
Y社は「金融機関・自治体向けシステム」の設計・開発等を目的とする株式会社
【経緯】
昭62.4.1 X(男性)期間の定めない雇用契約 当初はシステムエンジニアとして勤務
平元.4.1 総合職→一般職 降格
平3.4.1 一般職→総合職 昇格
平14.4.1 SEとしての能力不足等を理由に総合主管1級→3級へ降格
平18.12.12 Xの長時間離席し業務懈怠を理由に懲戒処分(総合職→一般職へ降格)
平21.6.30 普通解雇

【解雇理由】
①長時間離席し,職務に専念しなかった。
②特定の従業員に対する異常行動が職場の環境を乱した
③セキュリティソフトを無断で無効にする等情報管理規定違反

【訴訟提起】
地位確認,賃金支払,違法解雇の慰謝料請求を求めた。 
裁判所の判断
【解雇の合理的理由について】
解雇理由①について
Xは平成18年12月12日に長時間の離席等を理由として懲戒処分を受けた後も,他の社員よりも離席時間が長い状態が継続しており,上司からの注意にもかかわらず,根本的な改善には至らなかったと認定した。

※離席の事実は,入退室を記録するカードリーダーの履歴から認定

解雇理由②について

Xは,上司からの注意や,複数回にわたる調査にもかかわらず,同僚の女性社員Aからつきまとわれているとの強固な思い込みが解消されず,席替えや配置換えが行われた後も,客観的に見て異常ともいえる行動を長期間継続していたことが認められ,このことが他の社員の就労意欲や士気にも影響を与えていたと認定した。

※Xの異常行動とは,Aをうちわで扇ぐ,Aが立ち上がると席を立って窓側へ移動する,事務室に出入りする際に顔を背けて歩く,Aに書類を渡す際,投げるように渡す,などが認定されている。

※Xの異常行動は,度重なるメールによる注意,複数の同僚社員からのヒアリング記録等の客観的記録から認定されている。

解雇理由③について

(1) ウィルスバスターを故意に停止した。
(2) CAT(システム管理ソフト)を故意に停止した。
これらの点からセキュリティ規程違反があると認定した。

※ ログ履歴等のデータを分析した資料を証拠として認定している。

※ XがPCに業務と関連があるとはいい難いソフトウェアをインストールし,PC内に保存しておく必要があるとは思えないイントラネット内のデータや,自己のホームページ用と思われる多数の画像データ等を保存していたこと,自己のホームページ用と思われる画像データを私用のメールアドレスに送信したほか,給与明細やメールのデータも度々転送していたこと等の事実を認めるものの,それについての注意指導がなされた形跡がないこと,頻度や程度が不明であること,私用メールアドレスへの転送は2年で45回程度であること,を理由に職務専念義務違反とは評価できないと判示している。

【解雇の社会的相当性について】

上記諸事情に加え,
・ 以前にも長時間の離席を理由とした懲戒を受けていること(それにもかかわらず,前記のような問題点が改まらなかったこと)

・ 当裁判所においても,Xが自己の行動を正当化する態度は変わらず,第三者の指摘に沿って自己の問題点を振り返るという対応は今後も望めないと思われること

から,本件解雇は客観的に合理的な理由があり,社会的にみて相当なものであり,有効であると判断した。
コメント(実務上の参考事項)
(1) 異常行動をとる社員への不通解雇
まず,本件で注目するべきは,メンタルヘルス不調が疑われる労働者に対する普通解雇である,という点です。

本判決で,労働者Xは,同僚Aをうちわで扇ぐ,Aが立ち上がると席を立って窓側へ移動する,事務室に出入りする際に顔を背けて歩く,Aに書類を渡す際,投げるように渡す,といった異常行動をとり続けており,言動も「Aからつきまとわれている」などというものであり,これについては上記判決でも「客観的に見ても異常ともいえる行動」と認定されています。

この事例読むと,精神疾患であることも想定されうるといえ,だとすると,日本ヒューレット・パッカード事件最高裁判決(H24.4.27)が思い起こされます。

同最高裁判決は,使用者は,仮に労働者がメンタルヘルス不調を自ら訴えていなくとも,労働者の言動などからメンタルヘルス不調が疑われる場合には,雇用契約上の信義則として,精神科医による健康診断,治療の勧告,休職等の処分を検討しなければならない義務がある,ということを最高裁は明らかにしました。

今回の事件でも,労働者は異常行動をとっていますが,自らメンタルヘルス不調を訴えておりませんし,訴訟上も主張がなされていません。

ただ,だからといって普通の健常者と同じ段取りでおこなった普通解雇が有効になるかは別途検討が必要だと思われます。

今後,上級審で,予備的にでもメンタルヘルス不調を労働者側が主張した場合,本件判決とは別の検討(メンタル不調者への普通解雇の可否・限界)がなされるものと思われます。

その意味で,控訴審に動向が気になります。また,この種の事案は労働審判で頻繁に提起され,弁護士として相談・依頼をよく受ける事案です。

(2) PCの管理上の問題が解雇理由になっている
最近は,PC及びインターネットの使用が業務の中心になっており,それに伴い,PC管理上の問題が解雇理由とされることが多くなりました。本件判決は,PC管理上の行為の普通解雇事由該当性の事例判断として参考になると思います。

まず,Y会社はコンピュータ・システムおよび通信ネットワーク・システムに関する企画立案、コンサルティング、設計、開発等を目的とする株式会社であり,PCのセキュリティはY社の信頼・業務に直結する重要性を有していました。

そのことを前提に,Xが,故意でセキュリティソフトやシステム管理ウエアを停止したことは,業務への支障が大きく,解雇理由に該当するとしました。

他方で,無断で自分が使うソフトをダウンロードしたり,私用メールを使ったり,自分のホームページを就業時間中に改訂したと伺われるとしても,それは解雇理由には該当しないと判断しました。このような事実は,解雇紛争でよく会社側が主張するのですが,この程度では解雇理由にならないという参考になります。

(3) 普通解雇を有効にするためにはここまで必要
今回は解雇を有効と判断するものであり,これまでの判例理論及び労働契約法などから,解雇は実質的に不自由となっている実務を踏まえますと,非常に参考になります。

まず,いずれの解雇理由についても,客観的証拠による立証に成功しています。ログ履歴やメールなどの証拠が揃っていました。

また,問題行為があった際に,注意指導の経過をメール等により証拠化できていました。

さらに,問題行為の一つについては,懲戒処分を経ています。

ここまで揃えば,普通解雇は有効になるという一つの実例になります。

ただ,ここまで揃っているケースは非常に少ないように思われます。
ですので,ここまでしないと解雇は有効にならない,ということを前提に,日頃の労務管理を行う必要があると思います。
 

弁護士の吉村です。

今日は起業について。

会社の経営者同士の紛争のご相談も多い。

その中でも次の2ケースがトラブルのトップ2だと思う。


経営権紛争トップ2 ①誰かと一緒に起業して共同経営を始めた後,仲違いして,揉めるケース。
②起業に際して出資してもらって,後々揉めるケース


 まず,①については,最初は運命共同体のように仲良く始め,リスクも半減するし,誰かと一緒にやることで心強いことも多くメリットがあるかのようにみえます。

しかし,二人で始めても,どちらか一方がより頑張って成果を上げ利益を生む。もう一方はぱっとしない。にもかかわらず利益は折半というのはちょっと納得いかない。それで,利益の分配率を変えようとすると,もう一方は納得しない。又は,音楽性の違いを理由に解散するバンドのように,途中から経営方針について意見が食い違う。

次に,②ですが,色々アイディアはあるんだけどカネはない。そして借金をするのは嫌だ。そうしたところに,親切そうな金持ちのおじさんが「これでやってみなさい。」と出資してくれる。会社の立ち上げに際して株式の半分以上をもってもらう。

出資なので,返済の義務はないし,リスクなく事業が開始できるのでよさそうだけど,事業が軌道に乗って利益が出始めると,出資者が色々言ってくるようになる。もっと利益をよこせ,と。その辺りからうるさくなっていき,遂には役員を解任される羽目になる。

以上は,原因は簡単で,いずれも起業に際して一人で身銭を切っていないことに原因がある。

基本的に,リスクを負わない人は利益も得ることができない,これが鉄則である。

起業に際しては,自分で金を用意するべきだ。

それは借金(但し,高利のサラ金は除く)でもなんでもして用意しなければならない。

そして,他の人員は雇う。仮に誰かを役員として雇うとしても給料は払う。

つまり,経営についてリスクを負うのは,経営者自分一人だけ

ここまでして始めて,上記経営紛争なく起業ができる。

これを聞くと,起業なんてリスクの割に合わない,嫌だ,と思う人,あなたの判断は正しい。

但し,起業には向いていないので,既に誰かが起業したビジネスで雇って貰い給料を得て下さい。

割に合わないことは承知で,最悪破産かもしれないけど,それでも自分で身銭を切ってやってみたいことがある!これをやらずには死ねない,という奇特な人。その人だけが起業の資格ありです。

以上は,起業して従業員の規模が10人くらいに達するまでの話。

その後の規模にシフトする場合は,別のことを考える必要がありますが,それは別の機会に。












本日も残業代の問題について。

とにかく最近多い類型のトラブルだからです。

では,残業代の問題は,突き詰めれば人事のストラクチャーの問題で,多額の残業代を請求されてしまうのは,労働時間・賃金の制度設計ミスです。

つまり,制度をしっかり構築していれば多額の残業代を請求されることは未然に予防できる事項であるし,経営者としてはそのような対策をぬかりなくしておかなければならないのです。

労働者から突然多額の残業代を請求されると,「ハイエナのような奴だっ!」「非常識だっ!」とおっしゃる社長が多いです。

しかし,動物のハイエナもそこにエサがあるから食いつくのであり,非常識でも何でもありません。労働者も労基法に基づいて請求をしていますので,非常識でもなんでもないのです(経営者からすると感情的には受け入れがたいかもしれないですが・・・)。

それを非難することは,法律を非難するに等しく,であれば,労働者をハイエナ呼ばわりするのではなく,国会議員を通じて法律を改正させるのが筋です。

ま,そんなことは簡単にできるわけないですが。

要は,残業代を請求してきた労働者に怒りを覚えるのは仕方ないとしても,そんなことよりも,会社のストラクチャーを見直すことが急務だということです。

それさえしっかりしていれば多額の残業代なんて発生しなかったのですから。

では,多額の残業代を予防するストラクチャーとな何か?
 
残業代の発生予防策
①残業を事前許可制とする。
②労働時間を適正に把握する。
③残業禁止命令を発する。
④残業をしない職場環境の構築
⑤事業場外のみなし労働時間制の適用
⑥裁量労働時間制の導入
⑦振替休日の利用
⑧変形労働時間制の導入
⑨残業代の固定払い

といった方策があります。

これらの詳細については,また改めてご説明したいと思います。

~おわり~

弁護士の吉村です。

久々の更新となりすいません。

本日は,残業代請求対応に関連してお話したいと思います。

会社は残業代請求に際して,タイムカードを隠せるか?です。

会社によっては業務の内容や性質から,従業員に対して,毎日ある程度は残業をしてもらわざるを得ないことがあります。

すると,原則として 残業代を支払わねばなりません。毎日数時間ずつであっても,これが積み重なるとトンデモない金額になることがよくあります。数百万の残業代を従業員から請求される,なんてことはざらにあるのです。

よくあるのが,退職と同時に行われる従業員からの残業代請求です。
退職により会社との雇用関係がなくなるので,気兼ねなしに請求をすることが出来るのでしょう。

ただ,残業を請求する場合,法律的には,残業の事実は労働者に立証責任があります

つまり,労働者が,タイムカード等によって証明を出来なければ,裁判所は原則として残業を認めないのです。

そこで,抜け目のない労働者は,退職する前にタイムカードをコピー(写メールなどの場合もある。これも証拠になる。)するなどして証拠をきちっと確保しています。

これに対して,タイムカードなどの資料を持たずに残業代を請求したい労働者は,会社にタイムカード等の資料の開示を求めてくることがあります

ただ,会社としては,証拠となるタイムカードなんか出したくない,というのが本音でしょう。出してしまえば,残業がある場合は,確実な証拠になってしまいます。これに対する有効な反論(管理監督者,固定みなし残業代の支給等)が無いような場合はなおさらそうでしょう。

その場合,会社はタイムカードを隠してしまうことは出来るのでしょうか?

結論
・労働者は証拠保全手続,文書提出命令等の手段があり,結局出さなければならない羽目に。
・さっさと出して減額した金額での和解をすることが合理的な解決につながることも多い。 


会社がタイムカードを提出しない場合,労働者は何をしてくるか?

① 労働基準監督署への通告
これは労働者からしますと,お金もかからずに出来る手段ですので,実務では割を利用されることが多いと言えます。通告がなされると,労基署より会社へ確認の電話などがかかってきますし,呼出を受けて事情聴取を受けることもあります。場合によっては,労基署が会社に乗り込んで調査をすることや,是正勧告を行うこともあります。
労働基準監督官が会社に来るのは,他の従業員への影響などを考えると,好ましいことではないですし,役人にずかずかと会社に立ち入られることを嫌がる経営者も多いです。

② 証拠保全手続(民訴法234条)
証拠保全は,訴え提起前に行なうことも可能な裁判所が行う証拠調べです。
ある日,突然,執行官が,証拠保全の決定書を持って会社に来ます。そして,その1時間後くらいに,裁判官と裁判所書記官,カメラマンが会社に来ます。そして,タイムカードを出すように命じられます。そして,タイムカードをコピーするか,またはカメラマンがパシャパシャと撮影して帰ります。これにより労働者はタイムカードを入手することができます。
これは,会社にとってかなりインパクトがありますね。 いきなり執行官から決定書を渡され,その直後に裁判官が会社に訪れますと,会社内はかなりざわつきます。経営者ははっきり言ってビビリますよ。
この手続は社労士も知らない人が多く,それが故に,気安く「社長,タイムカードなんて出す必要ないですよ!」とアドバイスする人がいますが,証拠保全手続でかちこまれるリスクは事前に説明しなければ,社長に怒られますよ。

③ 文書提出命令(民訴法219~)
訴訟になり労働者が文書提出命令申立を行い,タイムカードの提出を求めることができます。
その前に,裁判所は会社側にタイムカードを証拠として任意に提出するように再三求めてきます。これに従わない場合は,文書提出命令が出されます。
会社がこれにも従わないとどうなるか?
・ まず,労働者の言い分通りに労働時間が認定されてしまいます。労働者はタイムカードがなくとも,記憶などにもとづいて推定した労働時間を主張・立証してきますが,これが認められてしまうのです(民訴法224条1項)
・ また,20万円以下の科料の制裁を受けることもあります。
ですので,会社としては結局は出さざるを得なくなります。

和解の金額

そして,会社がタイムカードを提出を拒み,訴訟が長引けば長引くほど,労働者が感情的になり,最終的な和解金が高額になる傾向があります。つまり,感情的になり,値引きしてくれなくなるのです。
これに対し,訴訟前に,さっさとタイムカードを出して,ざくっと値引いた金額を提案すると,意外とと受け入れられたりします。
また,タイムカードの提出を拒んで訴訟に発展した場合,裁判対応の為にかかる人事部,経営者,従業員の人的負担はもちろん,弁護士費用の負担も馬鹿になりません。
そうだとすると,訴訟前に,さっさとある程度の金額を払ってしまった方が,会社にとってコストの点でよいことが多いのです
 
もちろん,会社側にて有効な反論がある場合は徹底的に行うべきです。ただし,それとタイムカードなどと開示するか否かは別次元の問題と考えた方がよいでしょう。

なお,東京地裁労働部の裁判官も同様の意見を述べていました。

元東京地裁36部 藤井聖悟 裁判官
使用者は、労働者が主張立証責任を負っているからといって、非協力を決め込む訳にはいかず、労働者の労働時間を適正に把握する義務を負っていることを踏まえて、労働者からの証拠の事前開示の申出に対して、誠実に対処する必要があるように思います。こうした事前申入れの拒否は、問題の先送りに過ぎませんし、多寡はともかく、支払うべき残業代がある場合には、将来的に、遅延損害金や付加金の負担や労働者側の譲歩を引き出しにくくなるなどのリスクが発生することとなりますので、自分の首を絞めることにもなりかねません。ですから、労使とも、訴訟前の段階でこうした相談があった場合には、証拠の事前開示を求めた上で、未払残業代の有無及び額についで、踏み込んで検討し、任意の残業代支払の可否及び条件等について事前交渉を行うことを励行していただきたいと思います(割増賃金請求訴訟の知識と実務 (弁護士研修集中講座)P186)。


~おわり~

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