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こんにちは。弁護士の吉村です。

本日も労働問題に関する実務について弁護士としてコメントをさせていただきます。
※本記事更新履歴・・最終更新日 平成26年4月10日(木)
平成26年3月23日初稿 4月1日(火)一部更新
 4月10日(木)一部更新

小保方 解雇
(時事通信社) 

本日の労働問題のトピックは,小保方晴子さんは理研から懲戒解雇されるか? です。

小保方さんらが本年1月末に英科学誌ネイチャーで発表した新型の万能細胞「STAP細胞」論文。“生物学の常識を覆す内容”,“夢の若返り”等明るいニュースとして話題を呼びました。
しかし,本年2月になり,理化学研究所(以下理研)に対し,発表された論文に疑義があるとの通報がなされ,理研は,調査委員会を設置し調査を開始しました。
そして,3月14日の中間報告を経て,平成26年4月1日,理研は,5つの調査項目中,2項目について画像の改ざん及びねつ造の研究不正があったと断じ,発表しました。 

この点について,野依理研理事長は,4月1日,「科学社会の信頼性を損なう事態を引き起こした」と謝罪を行い,関係者の処分は厳正に行うことを宣言しました。また,他の理研関係者は「論文の体をなさない」「科学者の良識からすると常道を逸している」「未熟な研究者」「不正と認められた場合は厳正に処分」などとコメントをしたと報道されています。
一方で,「画像転用や論文転用なんて些細なこと。そんなことを厳密にしたら日本の若い人が論文だせなくなる」「小保方さんへの嫉妬で潰したら可哀想」などという擁護・同情論もあるようです。小保方さん本人も4月1日付で「驚きと憤りの気持ちでいっぱいです」「理化学研究所に不服申立をします。」と文書で発表し,4月9日の記者会見でも,
「事実関係をよく理解されないまま不正と判定された。弁明と説明の機会を十分に与えてもらったら、間違いの経緯を理解してもらえると思う」などと争う姿勢を発表しました

では,科学者,研究者,学者が発表する学術論文において,盗用や剽窃,捏造などの不正行為があった場合,労働法的にはどのような対応となるのでしょうか?

 

ポイント(これだけ読めばOK)① 実務では,論文の捏造はもちろん,盗用・剽窃についても,所属する研究機関の信用を損なう重大な行為として重く処分され,懲戒解雇も例外ではない。
② 小保方さんは,他の研究者の論文を引用なく用いたことについては,研究不正はないと評価された。もっとも,不注意であることは否めず,一定の懲戒処分はありえる。また,改ざん(写真の切り貼り),捏造(別の実験の画像流用)は「不正行為」に該当し,懲戒解雇の原因となる。さらに,今後の検証において研究データを捏造し再現性のない論文であることが判明した場合は懲戒解雇処分は確実。
③ 共著者も小保方さんの論文をデータの正確性などの検証しなかった点に過失があり,一定の処分は避けられない。 


1 論文の盗用・剽窃ってそんなに悪いこと?

他人が書いた論文の一部を引用表示なく自分の論文の中に入れてしまうこと,はどの程度悪いことなのでしょうか?世の中では「コピペくらい,いいんじゃない?」などという意見もあるようですが,実際はどうでしょうか?

裁判例

論文の盗用に関する判例では,「そもそも,大学等の研究機関の目的とする学術研究とは,先行業績の上に新たな知見を積み重ねることであって,そのような新たな知見を生み出すことこそが正に研究者としての業績にあたるものであるから,研究者が,論文や著書等において,他者が既に発表した見解ないし知見を,自己が生み出したものであるかのように発表することは,当該先行業績を有する当該他者の研究者としての地位を侵害するばかりか,学術研究の健全な発展を阻害し,研究者間の秩序を害することとなるため,学術研究上の不正行為として厳に許されないことが明らかである」として,盗用・剽窃それ自体,非常に悪いことだ,判断しています(岐阜地裁平成23年6月2日判決 論文に計54箇所にわたる学術研究上の不正行為による執筆箇所があった事例で,執筆した大学教授を懲戒解雇し,それが有効と判断された事例)。 

公表されている過去の処分事例

また,新聞などで公表されている大学等の研究機関における論文盗用事案における処分が以下のとおりです。※1

 

  処分   件数(総数58件)
懲戒解雇 5
諭旨解雇 4
  論文撤回のみ   9
謝罪 5
調査中 7
引責辞任 2
停職1か月 1
停職3か月 6
停職6か月 3
依願退職 1
学位取消 9
除名 1
厳重注意 2
自主退職 2
訓告 1

 

これを見ると,退職に至るケースも例外ではなく,非常に重く処分されていることが分かります。

なお,処分の量定にあたっては,論文盗用の多さ・常習性や盗用した部分の論文の中での位置づけの重要度なども考慮されるようです。

 

2 捏造(再現性なし)は重く処分されるの?

では,データをでっちあげ再現性のない論文を発表するなどの捏造はどうでしょうか?

裁判例

比較的最近の裁判例では,東大元教授の多比良和誠氏が発表した論文が「再現性、信頼性はない」として懲戒解雇された事案で,「本件各論文は、いずれも再現性がないものであり、これらは科学学術論文であるから、これらを東京大学の教授である多比良が責任著者として作成、発表 をしたことによって、東京大学の名誉や信用が著しく傷つけられたことは明らかである」として東大の懲戒解雇を有効と判断しました(東京地裁平成21年1月29日判決 第二審も結論維持 上告)。

要は,捏造なんかやったら,所属機関の信用丸潰れ,ということです。

公表されている過去の処分事例

また,新聞などで公表されている大学等の研究機関における論文捏造事案における処分が以下のとおりです。※1

処分 件数(総数33件)
懲戒解雇 13
諭旨退職  1
除名  1
立証不能,処分なし  3
自主退職  1
論文撤回のみ  4
停職  3
訓告  2
学位取消  3
調査中  1
引責辞任  1

 

これを見ると,論文の捏造は,盗用・剽窃以上に解雇・退職を含む重い処分がなされているのが分かります。

 

3 小保方さんはどうなる?

(1) 論文撤回

まず,論文において研究不正が行われたほとんどのケースで論文撤回がなされています。

また,4月1日,野依理事長は,研究不正と確認された論文一篇については取り下げの勧告を行う旨発表しています。著者の一部も同意していると報道されています。
※記者会見では,小保方さんは,理研からの論文撤回の勧告を受け,その勧告を受けたこと自体は認めたが,撤回自体については同意しておらず,かつ,今後も撤回の意思はないと発表しました。 

 

(2) 論文盗用について→不正ではないにしても一定の懲戒処分はありえる

次に,論文盗用についてですが,理研の3月31日付の報告では,他の研究者の論文をコピペしたことは認められるが,コピペした部分の論文における重要性が低く,かつ,小保方さんが悪意をもってコピペしたとは言えず,また,他の部分についてはちゃんと引用していたことから,悪意ある盗用と断ずることはできず,不正行為とは断ずることは出来ないと評価しました。もっとも,理研は実験手順を正確に記載することは科学者の当然の義務であり、論文の引用に当たっては、該当論文の内容を正確に引用することが基本である」として,かかる基本を疎かにした小保方氏の落ち度はあると認定しました。
このような小保方さんの落ち度は,たとえ不正研究に該当しないとしても,理研就業規則が定める懲戒事由(第51条(8),(9))に該当し,譴責,減給,出勤停止などの懲戒処分を下されることは十分ありえます。
従って,小保方氏は,懲戒解雇まではなされなくとも,一定の懲戒処分は避けられないのではないかと思います。

 

(3) 改ざん,捏造について → あり。懲戒解雇相当

① 改ざん(写真の切り貼り)

理研の規程※2が定める「改ざん」研究資料、試料、機器、過程に操作を加え、データや研究結果の変更や省略により、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること」と定義されています。
「改ざん」をもう少し分析すると,次のように要素分解されます。
Ⅰ 客観的にデータ等の意図的な修正などの状態があること
Ⅱ Ⅰが「改ざん」と評価されること
Ⅲ 主観的に,Ⅰ,Ⅱの認識があること(「悪意」)


理研は,写真の切り貼りについて,Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ全て満たすので「改ざん」の不正行為があったと認定しました。
これに対し,小保方さんは,
 客観的にデータ等の意図的な修正などの状態があること→○認める
 Ⅰが「改ざん」と評価されること→× 争う。見やすくするために操作をしたが、操作を加えたからといって結果自体は何ら影響を受けないなどとして、改ざんには当たらないと主張しています。
 主観的に,Ⅰ,Ⅱの認識があること(「悪意」)→Ⅰの認識があったことは認めるが,Ⅱの認識は争う。

つまり,Ⅰ客観的事実関係は争いようがないので,Ⅱ評価=つまり意味づけについて争っているのです。
では,どちらが正しいのでしょうか?
小保方さんの言い分は,結果が正しいのだから,そのプロセスの説明部分で画像の切り貼りしたって問題ないんじゃない?というものです。しかし,科学論文という性質上,結果はもちろん,プロセスについても正確性,真実性が非常に強く要請されます。なぜなら,プロセスがいい加減ならば,結果について検証の仕様がないからです。こんなことは素人でも分かります。従って,小保方さんの反論は科学論文の性質を無視した荒唐無稽なものと言えるでしょう。
また,小保方さん側もこの反論がかなり厳しいものであることの認識がありますので,不服申立書でも「結果的に表示方法において不適切な面があった」などと自己弁護しており非常に歯切れが悪くなっています。

以上から,写真の切り貼りについては,再調査後も「改ざん」の不正研究との結論になるでしょう。

② 捏造(別の実験の画像の流用)

理研の規程※2が定める「捏造」データや研究結果を作り上げ、これを記録または報告すること。」と定義されています。
「捏造」をもう少し分析すると,次のように要素分解されます。
Ⅰ 客観的にデータ等が実験対象とは全く違うものが報告されていること
Ⅱ Ⅰが「捏造」と評価されること
Ⅲ 主観的に,Ⅰ,Ⅱの認識があること(「悪意」)

理研は,別の実験の画像の流用がⅠ,Ⅱ,Ⅲ全て満たすので「改ざん」の不正行為があったと認定しました。
これに対し,小保方さんは,
 客観的にデータ等が実験対象とは全く違うものが報告されていること→○認める
 Ⅰが「捏造」と評価されること→×争う誤った画像を使用したが、掲載すべき画像は、2年前の6月に撮影されており、存在しないデータや研究結果を作り上げた行為はなく、ねつ造には当たらない。
 主観的に,Ⅰ,Ⅱの認識があること(「悪意」)→争う。仮に「捏造」にあたるとしても,「単純ミス」であり,「悪意」はなかった

つまり,ここでもⅠ客観的事実関係は争いようがないので,Ⅱ評価=つまり意味づけとⅢ悪意について争っているのです。
では,どちらが正しいのでしょうか?

まず,Ⅱ「捏造」と評価できるか否かについては,さきほどの小保方さんの言い分と同じであり,
結果が正しいのだから,そのプロセスの説明部分で画像が別のものであっても問題ないんじゃない?というものです。科学論文においてこれは通用しないことは先ほど説明したとおりですので,まずⅡ「捏造」と評価されることは間違いありません。
問題はⅢ「悪意」があったか否かでしょう。
この点について小保方さんは,ラボミーティングなどでパワーポイントに貼り付けた画像を間違ってSTAP論文に付けてしまった,真正な画像はある,との反論でした。
しかし,非常に不合理な点が多く,信用できません
まず,真正な画像があるとのことですが,その真正な実験により作成された画像であることの資料(実験ノート)の存在が不明であること。真正が実験プロセスを経て作成された画像なのであれば,そのプロセスを詳細に記録した実験ノートがあってしかるべきです。しかし,存在するのか?との記者からの質問に「そのはずです・・・」などの非常に歯切れ悪い回答に終始し,かつ,あったとしても「第三者が見たときに十分な記載になっているかどうかは分からない・・・」との説明で非常に曖昧です。
また,そもそも別の実験の資料を,今回の重大な実験の資料に用いたというのも不自然極まりないと言えます。さらに,特に「急がなければならない事情はなかった」としながら,なぜSTAP論文作成の際に原データを確認しなかったのかについても明確な説明がなされていません。
以上から,「悪意」があったと認定されることは十分な理由があるといえ,再調査をするまでもなく「捏造」の研究不正もあったと結論付けることが可能でしょう。

③ 懲戒解雇か?
以上2点の研究不正をもって,懲戒解雇の合理的理由・社会的相当性という要件を備え,懲戒解雇は有効になしうると思われます。
ただ,労働裁判では労働者側優位な裁判官も多く存在しますので懲戒解雇をした場合,無効のリスクもあります。
そこで,理研としては,「STAP細胞の再現性」という最大の論点について検証を行い,この結論を待って,小保方さんを処分することになるでしょう。「STAP細胞の再現性」,この点に不正があった場合は,120%懲戒解雇は有効になるからです。
実験の再現性というSTAP細胞の存在の証明については,今回の3月31日付の理研報告書ではそもそも調査対象になっていませんでした

ただ,理研は,4月1日付けで「STAP現象の検証の実施について」との文書にて,今後1年くらいかけてSTAP細胞の再現性を検証すると公表しました。
小保方さんは4月9日の会見で「STAP細胞は存在します!」「自分で200回以上作成に成功している」と強弁していましたが,肝心の証拠については,全くといって良いほど提示されておりませんでした。実験ノートも公開しないとしています。まさに結論ありきで,科学にとって肝心のプロセス,証拠については触れられない,という一貫した態度を最後まで維持しておりました。 本当に怪しいとしか言いようがないですね・・。

(4) 共著者はどうなる?

共著者も一定の処分は免れないでしょう。
実際にも,3月31日付け報告書でも,若山さん,笹井さんらの共著者は, 「
データの正当性、正確性、管理について注意を払うことが求められていた」にもかかわらず,これを怠ったため,小保方さんの捏造を許すことになったとし,「その責任は重大」と断じています。責任著者でありかつ不正の首謀者である小保方さんほどではないにしても,他の共著者は,不注意さ(過失)について一定の処分は免れないと思われます。

(5) 小保方さんの対応(4/1時点で謝罪なし)→4/9会見では涙の謝罪

小保方さんは4月1日付けで自己のコメントを発表しました。
理研の調査結果には,「
驚きと憤りの気持ちでいっぱいです」と非難をし,また,「研究不正と認定された2点については,理化学研究所の規程で「研究不正」の対象外となる「悪意のない間違い」であるにもかかわらず,改ざん,ねつ造と決めつけられたことは,とても承服でき」ないとして,近日中に,理化学研究所に不服申立をすると宣言しました。ただ,小保方さんの反論は,要するに「悪気はなかった」「単純ミスでしょ」と言い訳するものに過ぎません。また,最も驚くべきことは,発表したコメントにおいて,一切謝罪の言葉が述べられていないことです。研究不正と評価されるか否か,悪気があったのか否かといったことは置いておくとしても,客観的事実として,修正した画像の論文への添付や全く違う実験条件の画像の取り違えがあり,これにより理化学研究所の信頼・社会的評価を低下させたことは間違いないでしょう。にもかかわらず,「私の不注意でご迷惑をおかけし誠に申し訳ありませんでした。」程度の謝罪の言葉の一つもないのは,ある意味凄いですね。反省の姿勢が全く示されていないからです。後々裁判となった際に,裁判官の心証が悪くなります。
と指摘していたら,4/9の記者会見に際しては,一転,涙ながらに謝罪をしていました。この点は,戦略的なものであることは,小保方晴子さん 謝罪「理研で研究続けたい」その真意は?をご参照ください。

 

※1 参照論文 菊池重秋「我が国における重大な研究不正の傾向・特徴を探る」別表
※2 
科学研究上の不正行為の防止等に関する規程

【参考サイト】
・ 懲戒解雇とは?
・ 職場外の非違行為で懲戒解雇できる?
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弁護士の吉村です。

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本日も労働問題に関し弁護士として解説させていただきます。

前回に引き続き,巷で話題の小保方さんの改ざん・捏造問題についてです。

「STAP細胞」論文について,本年4月1日,理研より改ざん及び捏造の研究不正の単独犯として断罪された小保方さん。謝罪は一切せずに,直ちに弁護士を雇い,「驚きと憤りの気持ちでいっぱいです」と怒りをあらわにし,研究不正判定については,不服申立をすると宣言しました。

しかし,ここにきて一転,小保方さんは代理人を通じて「世間をお騒がせし、共同著者に迷惑をかけ、若い研究者として至らなかった点はおわびしたい」と話し「今後も理化学研究所で研究を続けたい」という意向を示していると報道されました。

一切謝罪をせず怒りを爆発させていた小保方さん。理研に戻っても誰も援助者はおらず四面楚歌は目に見えています。本気なのでしょうか?その背後にある戦略とは?

 

ポイント(これだけ読めばOK)① 小保方さんの謝罪,職務継続の表明は,今後の法廷闘争を有利に進める為の戦略にすぎない。
② 本当の
狙いは,懲戒解雇処分を回避し,研究者としての立場を維持しながら,最終的には他への転職にある。
③ 本当に重要な争点はSTAP細胞の再現性。理研と小保方さんお本当の闘いはこれから。 

 

懲戒解雇を回避する弁護戦略は?

まず,一般に懲戒解雇されそうな労働者がとる戦略は,

①懲戒解雇の原因がないことを主張する

②反省の謝罪の意思を示し情状酌量を得る

③職務継続の意思を示す

ことが基本となります。これについて以下説明します。 

①懲戒解雇原因について

懲戒解雇は,そもそも原因がなければされることはありません。いわば刑法で禁止されている行為をした事実がなければ無罪となるのと同じです。

理研が定める懲戒解雇原因は次のとおりです。

就業規則第52条(諭旨退職及び懲戒解雇)

研究の提案、実行、見直し及び研究結果を報告する場合における不正行為(捏造、改ざん及び盗用)が認定されたとき。

 

科学研究上の不正行為の防止等に関する規程

第2条 この規程において「研究者等」とは、研究所の研究活動に従事する者をいう。

2 この規程において「研究不正」とは、研究者等が研究活動を行う場合における次の各号に掲げる行為をいう。ただし、悪意のない間違い及び意見の相違は含まないものとする。

(1)捏造 データや研究結果を作り上げ、これを記録または報告すること。

(2)改ざん 研究資料、試料、機器、過程に操作を加え、データや研究結果の変更や省略により、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること。

(3)盗用 他人の考え、作業内容、研究結果や文章を、適切な引用表記をせずに使用すること。

 

このように,小保方さんの場合,「研究不正」があることが懲戒解雇の原因となりますので,これを「研究不正」に該当しないと争うことが戦略の第一歩です。

実際にも小保方さんは4月8日に不服申立を行ったと報道されています。  

②情状酌量について

また,懲戒解雇の原因があっても,情状酌量の余地がある場合は,懲戒解雇はされません。殺人犯であっても情状酌量の余地がある場合には死刑を免れるのと同じで,懲戒解雇という極刑も情状酌量の余地がある場合は回避されます。

小保方さんは,4月1日の時点では,一切謝罪もせずに憤慨していました。この点について,私はブログで「裁判官の心証を害する態度だ。」と指摘していましたところです。すると,小保方さんもまずいことに気付いたのか,一転,「世間をお騒がせし、共同著者に迷惑をかけ、若い研究者として至らなかった点はおわびしたい」などと謝罪の意向を発表するようになりました。労働問題に詳しい弁護士に助言を受けることができたのか,又は,小保方さん自身が懲戒解雇の危機にある自覚が遅ればせながらでたのでしょう。普通の人ならば悪いことをしてしまったという意識があるのであれば,最初から謝罪の意思を示しますが,小保方さんのような後出しの謝罪はまず戦略的なものと考えてよいのではないでしょうか。 

③職務継続の意思を示す

小保方さんは,今回の捏造騒動の間,体調不良を理由に,理化学研究所へ出勤しておらず,いわば雲隠れしていると報道されています。
今までちやほやしてくれていた理研からは単独犯と断罪され,共同著者もさっさと謝罪及び論文撤回の意思が表明されており,小保方さんは,人間不信に陥っているのかもしれません(まあ,それだけの過ちがあったのですが・・)。コピペや捏造,改ざんの論文を書く研究者として烙印を押されていますので,同僚の研究者も誰も小保方さんに近づかないでしょう。このまま理研にいても孤立し,まともな研究生活は送れないことは目に見えています。にもかかわらず,小保方さんは「理研で研究を続けたい」などと発表しています。一体何を考えているんだ,と思う人がいてもおかしくありません。

私の見解では,これも小保方さん側の戦略でしょう。

小保方さんの雲隠れ状態は,有給休暇を消化して行われていると推測されますが,有給がなくなると,理研へ出勤しないことは単なる欠勤の継続ないし仕事をする意思が喪失していると後々裁判で認定されかねません。そこで,こういう場合は,「職務継続の意思」を表明するのがセオリーとなっており,これを行うことで意味も無く欠勤を継続している,働く気がない,などという使用者側の批判を回避することができます。

今回の小保方さんの「理研で続けたい」宣言もこの趣旨であると考えて間違いないでしょう。普通の神経の持ち主ならば,理研で研究は続けることは難しいのではないでしょうか。

 

おわりに

研究不正の判断や懲戒解雇処分が確定すれば,小保方さんの研究者としての人生は終わるといっても過言ではないでしょう。研究者としての生死をかけた闘いに,弁護士を4人も雇ったというのもあながち大袈裟ではないでしょう。

捏造や改ざんが表に出ていますが,最大の争点は,「STAP細胞」論文の再現性でしょう。理研は,今後1年をかけて研究チームに検証をさせると発表しています。STAP細胞の存在にかかわるデータに捏造があり,再現性がないことが明らかになった場合は確実に懲戒解雇は確定するでしょう。小保方さんの本当の闘いは,4月1日の理研報告の先にあるのです。

 

【関連リンク】
・ 懲戒解雇とは
・ 懲戒解雇への対応方法
・ 解雇で弁護士に相談したい場合なら


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こんにちは。弁護士の吉村です。

本日も労働問題に関するホットな最新判例について弁護士としてコメントをさせていただきます。

本日の労働問題の判例は,社員が会社の営業機密が保存され業務上使用されていたハードディスクを無断で持ち帰ったことを理由とする解雇が無効となった事案です。
情報漏洩 懲戒解雇

石油等を販売する株式会社に勤めていた社員が,会社の営業機密が満載のハードディスクを上司に無断で持って帰りました。
このハードディスクには,会社の取引に関する営業機密(取引先,受注数量,単価など)のデータが過去数年分保存されていたのです。
もしこのようなデータが競業他社などに漏れたら,会社が営業的な大打撃を受ける可能性は非常に大きい状況でした。

そこで,会社は,「会社の業務上の機密及び会社の不利益となる事項を外に漏らさないこと」という就業規則の規定に違反するとして懲戒解雇(及び予備的普通解雇)をしました。

しかし,裁判では無効と判定され労働者が勝訴しました。その理由は? 

 

ポイント(これだけ読めば十分!)
① ハードディスクを持ち帰ったとしても,その中の営業機密情報を「漏らした」ことを会社が証明できない以上,規定違反にはならない。
② 
また,情報漏洩していない以上,重大な規律違反とは言えず,もともと解雇は出来ない。
③ 
懲戒解雇としてはもちろん,普通解雇だとしても無効。


 判 例 情 報 

乙山商会事件

東京地裁(平成25年6月21日)判決

労働判例 1081-19

 

 事 案 の 概 要 

【当事者】

X(原告):男性従業員。H17 正社員採用

Y(被告):石油製品その他燃料の販売等を業務とする株式会社。

【事案の概要】

H17.春 Xは、採用された。その後,自費でハードディスクを購入し,業務用データのバックアップ用に使用していた。
H24.1.10 Xは,ハードディスクを上司の許可無く持ち帰った
  1.13 YはXに事情聴取
  1.18 YはXを懲戒解雇処分
 

 結   論 

請求認容(慰謝料請求は棄却)(労働者勝訴)

 

 解 説 

1 労働者は秘密保持義務を負っている


まず,労働者は,会社との雇用契約に基づいて,会社の秘密を保持する義務があります。そして,多くの会社の就業規則において,労働者に対し秘密保持義務が課され,あるいは名誉・信用の失墜行為が禁止されており,これらの違反は懲戒処分や解雇の理由となり得ます。

 

2 でも,情報を持ち出されただけでは解雇することは難しい


労働者が会社の機密情報を持ち出した場合,会社は,就業規則に基づいて一定の処分を行うことは出来ますが,持ち出しだけでは解雇をすることは難しいのが現状です。

 

一般的には,解雇が出来るのは,

①労働者が機密情報を

②第三者に開示する意思で

③第三者へ開示した,又は,それと同等の危険にさらした,ないしさらそうとした

という要件を満たす必要があり,かつ,この点を会社が証明できなければなりません。

 

この証明は,会社としてはかなり難しく,解雇処分の前において慎重な確認作業が必要となります。 

3 会社の情報管理が重要!

 

会社としては,何よりも事前の情報管理体制の構築が大切です。

 

今回ご紹介した事案では,従業員が持ち帰ったハードディスクはそもそもその従業員の私物であり,かつ,会社もそのことを把握していませんでした。これだけでも会社の情報管理体制がなっていないことが分かりますね。

 

(1) 情報管理体制

 

まず,そもそも業務用のデータは会社が提供するハードディスクやパソコンにて管理するべきであり,従業員個人のパソコンやハードディスクは持ち込み自体禁止するべきでしょう。

 

会社の情報を,従業員個人のPCなどに保存させていては,会社にて情報の管理が徹底できません。特に,従業員が退職した後に,情報の行方が分からなくなってしまいます。

 

(2) 情報管理のルール

また,就業規則などにおいて,情報管理のルールをしっかり明記し,労働者に周知徹底することも大切です。

4 (おまけ)懲戒解雇には普通解雇が含まれないのが原則

 

今回ご紹介した事案において,会社は当初は懲戒解雇を行っていたのですが,裁判の時点で,「懲戒解雇には普通解雇が含まれる!」と主張していました。裁判ではこれは認められませんでした。

 

会社がこのような主張を行った理由は,解雇が有効となるためのハードルの高さが

 

懲戒解雇>普通解雇

 

であるため,「懲戒解雇では負ける。普通解雇にすりかえなければ!」という発想だったのでしょう(裁判では,よくある主張なんですが,かなり苦しい主張です。)

 

この点について,裁判所は,「懲戒解雇は,企業秩序違反に対する制裁罰として普通解雇とは制度上区別されたものであり,実際上も普通解雇に比し特別の不利益を労働者に与えるものであるから,懲戒解雇の意思表示はあくまで懲戒解雇として独自にその有効性を検討すべきであり,懲戒解雇の意思表示を事後的に普通解雇の意思表示に転換することは許されないと解すべきである。もっとも,使用者は,同一の非違行為につき,普通解雇事由にも該当するとして予備的に普通解雇の意思表示をすることは妨げられない。」とした上で,当事者の合理的な意思解釈として,「本件通告書による解雇の意思表示に予備的な普通解雇の意思表示が含まれていたと評価することはできない。」と判示しています。

 

以上です。

【関連サイトの記事】
・ 懲戒解雇とは?
・ 懲戒解雇への対応方法
・ 情報漏洩で懲戒解雇できるか?
 


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こんにちは,弁護士の吉村です。

本日も労働問題に関する実務について弁護士としてコメントをさせていただきます。

本日の労働問題のトピックは,行政指導を受けたドワンゴの受験料は労働法的にどうなのか?です。身近な時事ネタを通じて勉強しましょう。

 

既にマスコミに出ていますが,niconicoを運営する大手IT企業ドワンゴが入社希望者から受験料(2525円)を徴収する制度を導入したことが問題になっていました。

 

この件については,「今の就職活動は無料だから手当たり次第エントリーして内定した所に入社してたけど、「自分がどこに入社したいのか」を学生がもっと真剣に考える事になると思う。」などと賛成する意見がある一方,「収入の無い子供から金巻き上げるのやめなさい。プレミ解約すんぞ!」などという反対意見も多くありました。

 

そして,今年2月中旬頃,厚生労働省がドワンゴに対して,行政指導をしたとの報道がなされました。 


来春卒業予定の大学生らの採用を巡り、大手IT企業「ドワンゴ」(東京)が入社希望者から受験料を徴収する制度を導入した問題で、厚生労働省東京労働局が「新卒者の就職活動が制約される恐れがある」として、職業安定法に基づき、次の2016年春卒の採用から自主的に徴収をやめるよう行政指導をしていたことがわかった。

読売新聞


では,実際のところ,ドワンゴの受験料制度は労働法的にどうなのでしょうか?
 

ポイント(これだけ読めば十分!)

①ドワンゴの受験料制度は労働法的にはグレー。

②今回の厚労省労働局の「行政指導」は,実際には「助言」にとどまる。つまり,受験料制度が「違法」であることを前提とした改善命令ではない。

③ドワンゴの受験料制度には合理的理由もありそう。ただ,企業又は経営者として尊敬はされない。

 

 

 解   説 

1 受験料徴収制度は違法か?

 

(1)法律的には職業安定法39条の問題

まず,企業が採用選考に際して受験料をとってよいのか否かについては,職業安定法39条にひっかかるか?が問題となります。職業安定法というとハローワークなどをイメージするかもしれませんが,いま話題の派遣法を理解する上では必須の内容を定めていたりして,重要な法律です(この点は後日解説します。)。

 

ここで職業安定法39条は,「労働者の募集を行う者は、募集に応じた労働者から、その募集に関し、いかなる名義でも、報酬を受けてはならない。」と定めています。

 

この規定は,企業が募集にかこつけて労働者から不当にカネを巻き上げることを禁止し,労働者の募集へ応募するチャンスを奪うことを禁止するためのものです。

 

従って,ドワンゴの受験料制度がこれに違反しないかが問題となるのです。

 

(2)ドワンゴの受験料制度は違法とは直ちにいえない


【 
ドワンゴの受験料制度の概要 】

① 新卒採用で導入 金額は2525円 
② 1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)に限る

③ 目的は「本気で当社で働きたいと思っているかたに受験していただきたいから」

④ 手数料は全額ドワンゴ負担。受験料は奨学制度の基金等へ全額寄付予定。

⑤ 説明会,プレエントリー段階では発生せず。エントリーの際に発生。

⑥ 企業の側も受験生が多すぎて、採用の手間ばかりが増えて、本当に必要な人材を見極める十分な時間をかけることが難しい


とのことです。

 

金額2525円はそれ単価では高いとはいえない

説明会やプレエントリーの段階では受験料は発生せず,かつ,採用試験等のコスト自体はドワンゴが負担すること,

そして,受け取った受験料は「独立行政法人日本学生支援機構」へ全額寄付すること,

からしますと,

企業が募集にかこつけて労働者から不当にカネを巻き上げる

労働者の募集へ応募するチャンスを奪う

とまでは直ちに言えず,職安法39条に違反するとはいえないとも思われます。

 

他方で,

受験料をとること自体,学生には負担感がある

寄付するからといって,学生からカネを取ることには変わりない

採用試験の費用はドワンゴが負担するとなると,純粋に「カネ」で学生を本気を試すことになり,それ自体果たして合理性があると言えるのか

ということを考えると,職安法39条に実質的に違反するのではないかとも思えます。

 

つまり,違法とも適法とも言えない,「グレー」な状況にあります。

このようなスッキリしない状態ですので,ドワンゴは,今でも「受験料を取ることは白やで!」と強気に出ています。

 

2 厚労省の行政指導とは?

(1) 厚労省の解釈もグレー

では,職安法事案を取り扱う厚労省の見解は?

というと,よ~わからん,内部でも意見が割れている,とのことです。

つまり,厚労省もグレーだね,という見解なのです。

でも,厚労省としては,ドワンゴだけではなく他の企業もマネしたら,現状50~100くらいはエントリーする学生にとって過大な負担となるので,「新卒者の就職活動が制約される恐れがある」と雇用政策上の危機感を持っているようです。

 

(2) 厚労省の行政指導は,実は「助言」にすぎなかった

そこで,厚労省がとった苦肉の策が,今回の行政指導でした。

正確には,「職業安定法 第48条の2に基づき、2015年以降の受験料徴収の自主的な中止を求める旨の「助言」です。

 

この「助言」は,文字通りアドバイスに留まり,法的拘束力はありません。また,法律違反があったことを前提とするものではなく,「業務の適正な運営を確保するため」に行われるものに過ぎません。

 

(3) 助言を受けてもドワンゴは強気


法律違反と言われた訳では無く,かつ,助言に過ぎませんので,ドワンゴは強気な対応を続けています。

・入社採用試験に際して1人の受験生が100社以上もエントリーしている状況が正常であるとは言い難く、受験生、企業の双方にも大きな負荷がかかっておりこうした状況を解消すべきと考えています。
・お金を払える人だけが採用試験を受けられることで、収入格差によって就職の機会が奪われる可能性があるという指摘については否定しませんが、現在の弊社の受験料2,525円が収入格差により就職の機会を奪うほどの高額であるとは認識していません。また、将来的な可能性ではなく、現時点においても地方に在住する学生は交通費などの経費負担が大きいため首都圏の学生と比較して金銭的な理由からも就職の機会を奪われている状況にあると考えています。弊社が一都三県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)からのみ受験料を徴収するのは、この格差を多少なりとも軽減する狙いです。
・昨年以前と比較して、応募者の評価にじっくりと時間をかけられるようになり、また、昨年よりも応募者の質が向上していると感じています。こうした状況からも施策は成功しており、現段階では来年度も受験料制度を継続したいと考えています。

 

3 ただ,尊敬はされない

 

以上から,ドワンゴの受験料制度は労働法的には違法といわれるまでのものではなく,かつ,実際にエントリー数が減少し,ドワンゴいわく「応募者の質が向上している」とのことですので,一定の合理性もあったのでしょう。

 

でも,尊敬されないですよね。

企業が学生からカネとってふるいにかける,なんて発想は,斬新な発想でも何でもなく,ダサすぎてこれまで企業がやってこなかっただけじゃないですか?就職氷河期で買い手市場を逆手にとっているみたいで。
また,学生も好きこのんで100社もエントリーしている訳ではなく,それだけエントリーしてもなかなか内定を得ることが出来ない現状こそが原因なのではないでしょうか。
企業側の負担といっても,要は採用コストの問題でしょう。順調に収益を伸ばしているドワンゴが,学生に受験料を課して採用コストを削減しようとするというのもいかがなものでしょうか? 
敬意を失った企業から優秀な人材の一部は離れていくでしょう。結果として,削減コスト以上の価値を失うことになるのではないでしょうか。
いずれにしても,ドワンゴが生み出している素晴らしいコンテンツに比べると,非常に残念な制度ですよね。


以上です。

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(画像:神戸新聞)

こんにちは。弁護士の吉村です。

本日も労働問題に関する実務について弁護士としてコメントをさせていただきます。

本日の労働問題のトピックは,籾井勝人NHK会長による辞表強制にNHK理事らは対抗できるか?です。時事ネタです。

既にマスコミを賑わしていることですが,就任会見で「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」「慰安婦はどこの国にもあったこと」など政治的中立性を疑われる問題発言を行った籾井勝人NHK会長(70)。会長就任直後、NHK理事らに辞表を書くことを強制していたことが25日衆院総務委員会で明らかになりました。本年1月25日,臨時役員会で籾井氏が「あなた方は前の理事長が選んだ。今後の人事は私のやり方でやる」と、理事らに辞表の提出を求めたそうです。総務委に参考人として来た塚田祐之専務理事ら10人は、「日付を空欄にして、署名、捺印をしたものを提出した」と証言したとのことです。これは,「俺の意に沿わない奴は辞めてもらう。」という趣旨で辞表を提出させたと考えて間違いなさそうです。なお,籾井会長は27日の衆院総務委員会で、「それぐらいの覚悟でやってほしいという気持ちだった。辞表をむやみやたらと使って、脅すようなことは一切しない」と述べたとのことですが,極めて不合理な弁解ですね。辞表を出させるなどという行為は常識的には脅し以外の何者でもないという,普通の見識がないのでしょう。

このNHKの問題は,NHKが放送法に基づく法人であり,辞表を出したのがその理事である点が特殊ですが,民間企業の労働問題実務でも,このような辞表強要はしばしば起こりえます。例えば,会社でトラブルに巻き込まれ,「辞表を提出して,反省の意思を示せ!」などと命じ,退職を余儀なくされることを避けたいとの思いから辞表を預ける,というような場合です。この種事案について弁護士として労働審判に対応することもあります。

では,不本意ながら辞表を提出させられた場合,会社への対抗策はあるのでしょうか?

ポイント(これだけ読めば十分!)
①退職届(辞表)を提出しても,正式に受理される前であれば撤回は可能。まずは辞表の撤回を内容証明郵便などを使って通告するべき。
②仮に正式に受理された後であっても,辞表の提出が,その前後の文脈からして真実退職する意思がないことを会社側が知っている場合は無効となる(民法93条但書)。
③辞表提出を強いることは,職務上の地位の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて精神的苦痛を与えるパワーハラスメントに該当するので,NHK理事らは籾井会長に対し慰謝料の請求が可能

 

 解   説 

1 辞表の撤回ができるか?

退職届は,会社が承諾する前であれば,申込みの意思表示を撤回することは可能です。

この点は,過去のブログの中で既に解説しましたのでそちらをご覧下さい。

>>「新垣隆さんは桐朋学園に提出した辞表を撤回できるか?」http://roudoumonndai.doorblog.jp/archives/37175786.html

 

2 その気がないのに提出した辞表の効力

辞表が受理された後であっても,労働者の退職願の提出について,それが真実退職する意思を有するものでないことを使用者が知っているかあるいは知り得べき場合には,その退職の意思表示は無効となります(93条但書)。

裁判例でも,学内の人間関係のもつれから,学長から謝罪しないと大変なこととなる,勤務を続けたいならそれなりの文書を提出するようにといわれたため,反省の色が最も強い文書がよいと判断して退職願を作成提出したものの,提出の際に本当に退職してしまうのかとの質問に,「汚名を挽回するためにも勤務の機会を与えてほしい」と述べていた事案について「退職願は,……退職を余儀なくされることをなんとか回避しようとして作成されたものにすぎず,しかも,……大学もこれを承知していたことが明らかである」として,解約合意に関する申込みの意思表示は,心裡留保に該当するが,大学は真意を知っていたものであるから,無効であるとされています(昭和女子大学事件・東京地判平41221・労経速14858)。

 

3 辞表の強要はパワハラにあたるか?

(1) パワハラとは?

まず,職場のパワーハラスメント(パワハラ)とは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」※と定義されています。

 

(2) 今回のNHK問題について

今回,臨時役員会で籾井氏が「あなた方は前の理事長が選んだ。今後の人事は私のやり方でやる」と理事らに辞表の提出を求めたとのことですが,そもそもNHK会長といえども法律上の理由無く理事をクビに(罷免)したりすることはできません(放送法54条,55条)。理事に対し,その方針を強制したり,ましてや辞表の提出を強要する権限は全くないのです。また,不本意にも辞表を提出させられたことにより,理事らは自由な意思に基づいてその職責を全うすることができなくなるばかりか,屈辱以外の何者でもなく,精神的苦痛を被ったことは容易に想像できるところです。従って,籾井氏が辞表を提出させた行為は,パワーハラスメントに該当し,不法行為として損害賠償責任を負うと考えられます。

 

※平成24130日厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」

 

【詳細な解説は公式サイト】

「退職届の撤回ができるか?」

「パワハラとは

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