労働問題.COM|弁護士による労働問題(労働審判,労働組合)の解説 

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弁護士の吉村です。

さて,本日は,「言葉によるセクハラ」に関し,最高裁判決が出されましたので,その解説です。

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事案はこんな感じです。セクハラ親父が,若い女性社員に対して,他に誰もいない状況で,「俺のん,でかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ。」「この前,カー何々(セックス)してん。」「結婚せんでこんな所で何してんの。親泣くで」「30歳は・・おばさんやで。」「もうお局さんやで」「お給料全部使うやろ。足りんやろ。夜の仕事とかせえへんのか。」などとセクハラ発言を1年以上にわたって行った事案です。


被害女性は嫌気がさして退職してしまいました(なお,この件で,被害女性がセクハラ親父を訴えたら,慰謝料が認容されてもおかしくない事案といえるでしょう。)

会社の従業員中,過半数が女性社員で,顧客も約6割が女性という,女性が多い職場です。女性従業員を大事にしなければ成り立たない職場ということが出来ます。

会社は,セクハラ親父に対して,出勤停止及び降格の懲戒処分を行いました(これは,解雇に次ぐ重さの処分です。)。これに対し,セクハラ親父達は,「注意とかならまだしも,出勤停止や降格は重すぎるやん!」と懲戒処分の無効を求めて提訴しました。

第1審は会社勝訴,第2審はセクハラ親父勝訴,そこで,今回の最高裁が,セクハラ親父への懲戒処分は相当であるとして,会社勝訴を言い渡しました。

 

セクハラで懲戒処分というと,ホテルに連れ込んだとか,お尻をさわった,などという身体への接触があるケースが多く,言葉のセクハラは,せいぜい注意や始末書程度で済まされていたのがこれまでの現状だったと思います。言葉のセクハラで,解雇に次ぐ重さである出勤停止や降格まで行うという企業はそれほど多くなかったと思います。しかし,今回問題となった会社では,セクハラ親父に対して出勤停止及び降格という重い処分で毅然とした態度を示し,それが最高裁でも認められました。つまり,企業は,言葉のセクハラに対しても,重い処分をもって毅然とした態度を取ることができる,ということのお墨付きが与えられたのです。

 

また,今回の事案では,「女性が嫌がっているとは思わへんかったわ~。むしろ笑って聞いていたで~」というセクハラ親父の典型的な弁解についても,最高裁は,「セクハラ親父とことを構えたくない女性が我慢してるだけじゃ,ボケ!勘違いすな!」と切って捨てました。その意味も大きいでしょう。

 

戦後,我が国では,女性の社会進出が推奨され,男女雇用機会均等法等の法の整備も一応はなされておりますが,まだまだ女性にとっては働きにくい社会であることには間違いないでしょう。職場のセクハラは,女性の就業環境に影響を与え,就労意欲やモチベーションを低下させる大きな要因の一つとなります。セクハラにより優秀な女性社員の離職や成果減退に繋がることからすると,企業秩序のみならず,企業利益をも損なうと言うことができます。セクハラに対する対策後進国である我が国は,漫然とセクハラを見逃してきた気風があり,企業もさほど厳しい対応はとってこなかったのですが,今回の最高裁判例により企業が毅然とした態度でセクハラ労働者に対して臨むことができることを明らかにした意義は大きいでしょう。

また,女性労働者は,言葉のセクハラ被害にあった場合,慰謝料請求などは法的に認められないとしても,会社へセクハラ被害を申告し,再発防止を求めると共に,会社にセクハラ親父への懲戒処分をするよう求めることは可能です。今回の最高裁判例により,より重めの懲戒処分を求めることで,セクハラ親父対策をとることができることを意味します。

 

セクハラ親父は,「セクハラ,セクハラって,そんなに堅いことばかり言わんと~。女の子としゃべられへんわ~」などという意識では,足下をすくわれる,そんなことを示唆する判例と言えますね。

なお,全体的にエセ関西弁口調で失礼しました・・・ 今回の最高裁判例の中にも関西弁でのセクハラ発言が引用されており,セクハラ発言の下衆さかげんを倍増させていたので,ついつい言ってみたくなりました。

それでは,また。 

拝啓 向春の候 ますますご清栄のことと心からお慶び申し上げます。

平素は格別のお引立てを賜り厚く御礼申し上げます。

さて、当事務所は、このたび、平成27年2月14日に下記のとおり事務所を移転致しましたので、お知らせ申し上げます。

また、電話番号・Fax番号も変更となりますのでご確認頂きますようお願い申し上げます。

これを機会に、さらに皆様方のご信頼を得られますよう専心努力いたす所存でございますので、今後ともなお一層のご支援を賜りますようお願い申し上げます。

吉村労働再生法律事務所 所員一同

 
移転先住所
〒101-0053
東京都千代田区神田美土代町11-12 ニチヨビル6F
新電話番号 03-3518-6056
FAX番号 03-3518-6059
アクセス
都営新宿線 小川町駅B6出口徒歩1分
東京メトロ丸ノ内線 淡路町駅A4出口徒歩3分
東京メトロ千代田線 新御茶ノ水駅B6出口徒歩1分
JR 中央総武線 御茶ノ水駅徒歩5分
業務開始日
平成27年2月16日(月曜日)より移転先で
の業務を開始致します。また,同日より上記電
話番号へ変更になります。

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こんにちは。弁護士の吉村です。

本日も労働問題に関する実務について弁護士としてコメントをさせていただきます。
本日のトピックは,【日テレ-女子大生内定取消訴訟】入社を認める和解のその後です


東洋英和女学院大4年生の笹崎里菜 さん(22)が日本テレビより受けていた内定取消を不服として提起した「地位確認請求」訴訟。日テレは当初争う姿勢を示していたが,1月8日,急転直下の和解により紛争は終結した。笹崎さんは4月1日に、アナウンス部配属予定の総合職採用内定者として、日テレに入社する。入社前研修カリキュラムなどの調整でも和解合意した,とのことだ。 日テレ広報・IR部は「和解勧告を受け入れることが最善と判断しました。今後は合意した和解内容を誠実に履行していく所存です」とコメントを発表した。


ただ,笹崎さんは内定取消を撤回する和解に諸手を挙げて喜んでばかりもいられないだろう。この和解の先,日テレでは厳しい試練が待ち受けており,おそらくは笹崎さんが夢に見ていた女子アナにはなれないだろう。

和解のその後について労働法を踏まえながら考えてみたい。 

 

ポイント(これだけ読めばOK) ① 日テレは,敗訴確実な内定取消訴訟を続けることのレピュテーションリスクを回避するべく,早期和解に応じた。この和解により,笹崎さんは日テレアナウンス部配属予定の総合職正社員内定者としての地位を約束された。

② ただ,この和解で確実に保障されているのは日テレの総合職正社員の地位だけで,アナウンス部への配属は確実には保障されていない。入社後,日テレは,研修結果を踏まえ,アナウンサーにしないことも可能だ。

③ また,日テレでアナウンサーになれたとしても,人気女子アナが所属する本局報道アナウンス部への配属は全く保障されていない。日テレは,地方ローカル支局をどさ回りさせることも可能だ。そのようなアナウンサーとしての閑職ポストは日テレほどの巨大企業には腐るほどある。そして,笹崎さんはそのような配置について法的に争う余地は殆どない。企業には広大な配置転換の裁量権限があるからだ。

④ 労働法は強烈な法律だが,実は外枠を保障するに過ぎない。入社後のやりがいのある仕事や希望の配属先は法律では保障されていないのだ。それは会社から評価を得て勝ち取る他はない。しかし,笹崎さんへの評価は既に「アナウンサーとしての適格性なし」として下されている。この評価は内定取消理由としては法的な正当性はないが,入社後の配属・配置の判断材料にはなりえる。

⑤ 今回の内定取消を撤回する和解が
笹崎さんにとってよかったのか否か,それは誰にも分からない。
 

 

早期和解の内容

まず,今回の訴訟は,日テレにとっては内定取消訴訟が最初から負け試合であったことは弊ブログ「日本テレビによる女子大生のアナウンサー内定取消は有効か?」にて詳細に説明済みなのでそちらを参照頂きたい。

また,なぜ日テレは早期和解に応じたのかについても,
【日テレ-女子大生内定取消訴訟】入社を認める和解勧告の理由にて説明しておりますのでご参照あれ。

8日に成立した和解の骨子は

アナウンス部配属 予定総合職採用内定者として、日本テレビに入社

とのことだ。この和解は法的に何を意味するかというと,端的に言えば内定取消を撤回し,内定取消前の状態に戻す,というだけのことだ。この和解での法的な地位は何が保障されているかというと,①4月1日に日本テレビとの間で総合職正社員としての雇用契約が実際にスタートすること,②入社前研修等を受けることができる,ということだけだ。

恐らく笹崎さんが希望していた内容はこういうことではないだろうか?

4月1日に日本テレビとの間で総合職正社員としての雇用契約
②入社前研修等でアナウンサーとしてのトレーニングを積ませてもらう
③入社後も期待されたアナウンサーとして指導担当から懇切丁寧な指導を受ける
④予定どおり報道局アナウンス部へ配属される
⑤配属後も報道番組,情報番組その他の番組に出演し,アナウンサーとしての経験を積むと共に,少しずつ顔と名前を売ってもらい知名度を上げていく。日テレもそれを期待し,惜しみないバックアップをし,キャンペーンを行う。
⑥人気番組への出演も徐々に増え,人気女子アナウンサーとして活躍する。ゆくゆくは日テレの看板となる女子アナウンサーとなる。


私は業界には素人なので稚拙な推測であることは自覚しているが,大きくは間違っていないであろう。

今回の和解で保障されているのは,①,②までだ。③~を行うか否かは日テレの自由だ。つまり,日テレの広大な裁量があるということだ。

そして,③~を行うか否かは日テレが笹崎さんをどう評価しているかに関わるが,少なくとも既に「アナウンサーとしての適格性がない」という評価は出てしまっている。そして,その評価を覆す事情はその後も出ていない。従って,この評価は,内定取消を正当化する理由にはならないが,③~の配置・配属・バックアップの措置を取るか否かの理由にはなってしまうのだ。 

日テレは笹崎さんをアナウンサーにしないことが出来るのか?

これは出来る。
笹崎さんは,基本的には他の新入社員と同様,総合職正社員だ。

日本企業の新卒一括採用における総合職正社員は,職種限定なしのジェネラリストだ。特定の職種や部署,配属地に限定されず,日本内外のあらゆる場所で,あらゆる仕事をやることが前提となっている。どんな配属や仕事であろうとも,会社から命ぜられたら黙って従うしかない。これを拒否することは業務命令違反として,懲戒事由・解雇事由に該当する問題行為となるのだ。

ただ,笹崎さんは採用内定に至る経緯が,アナウンサーのセミナー経由である為,アナウンサーとして期待されて採用された点が他の一般採用の新入社員とは異なる。そこで,アナウンス部採用「予定」の総合職正社員という言い回しがなされている。

しかし,あくまでも「予定」であるに過ぎず,入社前後にアナウンサーの研修を受け,適格性を判断され,内容如何によっては,日テレはアナウンサーにしないことも法的には可能なのだ。

日本の労働法は,会社から放逐される解雇等については厳しいルールを課している反面,担当職務変更,配置については広大な裁量を企業に与えている。当然,アナウンサーの適格性判断についても,幅広い裁量が日テレにあたえられているので,明確に濫用であると判定できる客観的事情がない限り,それらしい理由をつけてアナウンサーにしないことも法的に許される可能性が高いのだ。

穿った見方をすれば,日テレは厳しい発声チェック,語学能力,言語識別能力の課題を課し,揚げ足取りのような指摘を繰り返し,笹崎さんを不適合だと判定することも不可能ではない。

おいおいそんなこと企業がやるのかよと思うかもしれないが,
名だたる大企業でクビにしたい奴を合法的に辞めさせる業務改善プログラム(「Performance Improvement Program」通称PIP)が取られていることは聞いたことがあるだろう。これは退職に追い込む為の方法であるが,職種変更や配属先を変更するための理由を作ることなどは一層簡単にできるのだ。

アナウンサーにしてローカル支局どさ回り!?

また,入社後研修を経て無事にアナウンサーの仕事へ就くことが出来たとしても,人気女子アナウンサーのルートは一切保障されていない。

聞いたこともないような地方支局のローカル支局へ飛ばされて,田舎の名産品の取材や地元ネタの取材などのドサ回りを一生させることも可能だ。

ドサ回りをさせられたからといって,日テレを訴えることは出来ない。日テレは,配置転換の理由について,「清廉性がないから」などと述べるような馬鹿はしないだろう。それらしい理由はいくらでもあり,それは裁判でも通用してしまうのだ。

言うまでもないが,アナウンサーへなることは非常に狭き門であるが,それ以上に人気アナウンサーになることはもっと厳しい競争を勝ち抜かなければならない。

今をときめく女子アナ達は,努力に基づく実力のみならず,運にも左右されながら,必死に掴みとった地位なのだ。つまらないスキャンダルなどは絶対に許されない。
現に看板女子アナとなっている方々は全くといってその様なスキャンダルがないことからも分かるであろう。

日テレは既に笹崎さんに対して厳しい評価を下している。そして,その評価を下した原因については消えていないし,ある意味,今回,訴訟提起という形で新たな原因が出来てしまったといっても過言ではない。 


今回の訴訟騒動をプラスに転換して笹崎さんにチャンスが生まれればよいが,それは誰にも分からないし,日テレが笹崎さんを優しくフォローしてチャンスを与えるということは現実的には考えにくいのではないか。

 

配置や配属などの希望は労働法に守られていない!?

以上のような悲劇は何故起こりえるのか?それは,先ほど述べたとおり,日本の労働法が会社から放逐される解雇等については厳しいルールを課している反面,担当職務変更,配置については広大な裁量を企業に与えているからに尽きる。

労働者は自分のやりたい仕事,自分の所属したい部署へ就くことを,法的に会社へ強制することは原則として出来ないのだ。

では,日本の企業において自分の望む仕事や配置を得るためにはどうしたらよいか?それは企業から評価されるしかないのだ。企業の利益の為にメリットのあるとの評価と労働者の希望が合致しなければ臨む仕事・配属は得られない。

今回の日テレ女子アナ内定取消騒動は,このような労働法の限界を考えるのはいい素材になったように思う。 


今後の展開

以上のとおり,法律的にみれば笹崎さんが夢見ていた日テレで人気女子アナウンサーとして活躍することは保障の限りではない。 

もちろん,笹崎さんの努力と実力そして運次第では,人気女子アナウンサーになる途もあるはずだ。私個人的にはそうなることを祈っています。

ただ,数多くの労働問題案件(特に解雇案件)を担当し,解雇を争い企業に戻った人,企業に戻らず別の途を選択した人の人生を目の当たりにしてきた弁護士としては,どうなるのか心配だ。

結果オーライでいいので,上手い方向に流れればいいのだが。 


 

【参考サイト】
・ 新卒の内定取消
 ・   解雇で弁護士に相談したい場合なら

 

こんにちは。弁護士の吉村です。

本日も労働問題に関する実務について弁護士としてコメントをさせていただきます。
本日の労働問題のトピックは,本日の労働問題の実務トピックは,【日テレ-女子大生内定取消訴訟】入社を認める和解勧告の理由です。です。


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東洋英和女学院大4年生の笹崎里菜さん(22)が日本テレビより受けていた内定を取り消されました。笹崎さんは内定取消を不服とし,日本テレビを相手に東京地方裁判所へ「地位確認請求」訴訟を提起しました。日テレ側は争う姿勢を示していましたが,一転,12月26日,東京地方裁判所で和解勧告がなされたとの報道がなされています。

笹崎さんの代理人緒方延泰弁護士は,「僕らの望んでいる方向に向かっている。年明けにはもしかしたら、僕らの希望する形で解決するかもしれない」「和解協議中なので、あまり詳しいお話はできない」と断りつつ「日テレさんから文書の形で和解案の提示があった」と明言。そして,「なぜすぐ和解が成立しないのかといえば、ひな鳥(笹崎さん)の毛をむしったから何らかの手を差し伸べようというご提案だったから」と比喩を用いて説明。「(日テレから)一定の負荷がかかった形の解決を求められている印象がある。僕らとしてはそういう形は受け入れられない。内定取り消しを撤回すればいいんだろうっていうことでは済まない」その上で「普通(の入社)より温かい手を差し伸べてもらって、優しく抱き上げて巣(局)に戻してもらいたい。我々としてはそういう趣旨の和解を目指している」と述べたとのことです。

「日テレはなぜ一転して入社を認める話をしたの?」「こんなに早い段階で和解勧告がなされることってあるの?」「笹崎さんの弁護士の比喩(ひな鳥の毛をむしる等)は何を意味しているの?」との疑問が出ています。それについて労働問題に詳しい弁護士としてコメントします。 

 

ポイント(これだけ読めばOK)① 早期の和解勧告の背景には,現時点で既に日テレ敗訴(内定取消は無効との判決が下される)可能性は非常に高いことがある。敗戦と分かっていながら続けることは日テレにとってマイナスでしかないからだ。
② 
日テレ敗訴を前提とした和解は,大きく2つの方向性がありえる。1つは,①入社しないことを前提とした金銭的解決。もう1つは,②内定取消を撤回し,入社を認める解決。
③ 
地位確認訴訟の和解は,95%以上のケースで①の金銭解決となる。日テレも入社しないことを前提とする金銭的解決を第一に望んでいたはず。しかし,今回は②入社を認める方向になっている。その背景には,笹崎さん側が①金銭的解決を断固として拒否していたことがあると推定される。
④ 
ただし,日テレは②内定取消を撤回し,入社を認めたとしても,笹崎さんをアナウンス局へ配属させる義務はない。もっと言えば,アナウンス局以外の部署へ配属させることも可能だ。笹崎さん側はそこを懸念している。アナウンサーになれないのであればこの闘いの意味がないからだ。
⑤ 
このまま入社してもアナウンサーにさせずに飼い殺しにされる位なら,やはり入社しない前提で金銭的な解決を選択する可能性もある。どっちにしても笹崎さんの希望は叶えられそうもない。
 

 

なぜこのタイミングで和解か?

まず,今回の訴訟は,日テレにとっては負け試合となることは明らかである。その点は弊ブログ「日本テレビによる女子大生のアナウンサー内定取消は有効か?」にて詳細に説明済みなのでそちらを参照頂きたい。

敗訴の可能性が高い現状では,このまま訴訟を続けることは日テレにとってマイナスでしかない。

①判決が出るのは約1年以上後。4月1日入社も叶わず,女子大生の人生を「ホステスのバイト歴は清廉性に反する」などという理由で台無しにしたことに社会的非難が高まる

②金銭的負担(長期化するほど,笹崎さんに払うお金は増える。弁護士費用も増える)

日テレほどの大企業になると,②金銭的負担というよりは,主に①イメージダウンの点がマイナスになるだろう。

そこで早期解決を図るためには和解しかない。

和解とは,当事者が譲り合って訴訟を終了させる方法で,裁判上の和解は裁判所の和解調書という公文書にまとめられ,確定判決と同じ効力を与えられる。 

なぜ日テレは入社を認めることにしたのか?

日テレ敗訴を前提とした和解は,大きく2つの方向性がありえる。

1つは,①入社しないことを前提とした金銭的解決。

もう1つは,②内定取消を撤回し,入社を認める解決だ。

地位確認訴訟の和解は,95%以上のケースで①の金銭解決となる。

日テレも入社しないことを前提とする金銭的解決を第一に望んでいたはずだ。裁判沙汰にまで発展した社員が入社しても,他の社員はやりにくしい,まさに腫れ物に触るような感じになってしまうからだ。

しかし,今回は②入社を認める方向になっている。その背景には,笹崎さん側が①金銭的解決を断固として拒否していたことがあると推定される。

裁判上の和解は,勝訴側にイニシアティブがある。つまり,今回のケースでは笹崎さんが首を縦に振る提案でなければ,和解は不可能だ
笹崎さんが金銭的解決を拒否している場合,②入社を認める方向での和解しかなかったのだ。

入社を認めても,アナウンス局へ配属させる義務はない!?

実は日テレは,②笹崎さんを入社させる方向で和解してもトラブルは回避できる。

アナウンス局以外の部署へ配属させることも可能なのだ。

今回,日テレが笹崎さんへ出した内定通知書には,「日テレへの入社」を認めることしか記載がない。「アナウンス局に配属され,女子アナウンサーとしての職種を専業する」ということは記載がなかったのだ。

つまり,笹崎さんが保障されたのは「日テレへの入社」までであり,「日テレに入社して女子アナウンサーとして仕事をしていくこと」ではないのである。

そうだとするとどういうことになるか?

日テレは笹崎さんを入社させ,集合研修を受けさせた後,例えば「君は,アナウンサーを希望しているようだが,北海道支局で営業をやってくれ。」などと辞令を出すことも十分可能なのだ

 

日テレが提示した和解案とは?

日テレは,提示した和解案は
「日テレが行った内定取消を撤回し,4月1日からの雇用契約上の地位を認める。」
という内容であったと推測される。つまり,アナウンス局への配属までは保障していない形での和解案の提案であったのだ。

だからこそ,笹崎さんの代理人弁護士は,「内定取り消しを撤回すればいいんだろうっていうことでは済まない」「普通(の入社)より温かい手を差し伸べてもらって、優しく抱き上げて巣(局)に戻してもらいたい。我々としてはそういう趣旨の和解を目指している」 という発言をしているのであろう。
つまり,
① 日テレが行った内定取消を撤回し,4月1日からの雇用契約上の地位を認める。
② 日テレは笹崎さんをアナウンス局へ配属し女子アナウンサーとしての職務が出来るよう保障する。
③ 日テレは,今回の一連の内定取消騒動について,笹崎さんに謝罪すると共に,笹崎さんが安心して入社して仕事ができるよう環境を整える

という解決まで望んでいるのであろう。

日テレは,懐の深いところを見せるべく,上記①~③の要望を受け入れることもありえる。 つまり,笹崎さんを女子アナとして登用し頑張ってもらうということもあるだろう。今回の一件で良くも悪くも知名度を得た笹崎さんも,ピンチをチャンスに変え,人気女子アナウンサーになることも不可能ではないはずだ。

しかし,日テレは,①は応ずるとしても,②や③まで応ずる義務はもともとないし,笹崎さん側も訴訟を続けて判決を得ても②や③まで保障する判決を得ることは不可能だ。
とすると,笹崎さん側は,日テレの単に入社だけを認める和解案に応じざるを得ないという,勝訴者でありながら苦渋の選択を強いられる可能性もありえるのだ。

このように苦渋の選択となる理由は,労働法では,労働者が使用者に対して自分がやりたい仕事をやらせるよう求める権利を保障していないといことに尽きる。 例外的に保障されるは,雇用契約の最初から職種を特定して契約している場合等に限られ,例えば専門職スペシャリストをヘッドハンティングして中途採用するような場合に限定される。新卒一括採用の女子大生の場合,職種を特定しているケースはまずない。 笹崎さんも内定通知書には「女子アナウンサー」という職種は限定されていなかった。

今後の展開

日テレが笹崎さん側の要望を認めればよいが,入社だけを認めるような場合,笹崎さんは4月以降入社できたとしても,どこに配属されるかは不明だ。アナウンサー以外の雑用をやらされ飼い殺しにされている可能性も大いにある。だとすれば,今回の急転直下の入社を認める和解について喜んでばかりもいられない。 考え方によっては,入社をしない前提で,がっぽり解決金をとって,別の進路を進むという方がよかったのかもしれないのだ。

笹崎さん側は法的に女子アナウンサーにさせることを日テレに強制できないのであれば、事実上の強制をするしかない。つまり、マスコミを利用して、女子アナウンサーにさせないのは酷い、という世論をつくって日テレを追い込むしかないのだ。笹崎さん側代理人のマスコミへの対応はこのような意図がある。マスコミを巻き込んだ論戦が功を奏するか?が鍵になるのかもしれない。


 

【参考サイト】
・ 新卒の内定取消
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こんにちは。弁護士の吉村です。

本日も労働問題に関する実務について弁護士としてコメントをさせていただきます。

小保方 退職
 


本日の労働問題のトピックは,
小保方晴子さん,退職です。

いわずとしれた「STAP細胞」論文問題。平成26年4月1日,理研は,画像の改ざん及びねつ造の研究不正があったと断じ,発表しました。その後,小保方さん自らも加わって,STAP細胞の再現性について検証が進められていました。しかし,10ヶ月以上経過しましたが,結局再現出来ず,懲戒解雇必至な状況になり,今般小保方さんから退職の意向がだされ,理研も受理しました。 


科学者,研究者,学者が発表する学術論文において,盗用や剽窃,捏造などの不正行為があった場合,労働法的にはどのような対応となるのでしょうか?どうして小保方さんは退職したのでしょうか?

 

ポイント(これだけ読めばOK)① 実務では,論文の捏造はもちろん,盗用・剽窃についても,所属する研究機関の信用を損なう重大な行為として重く処分され,懲戒解雇も例外ではない。特に捏造(再現性なし)が最も重く処分されている。
② 小保方さんは,論文の改竄のみならず,結局,再現性の部分においても捏造があったと評価された。ここで懲戒解雇はほぼ確実な状況となった。
③ 懲戒解雇を回避する手段は2つ。1つ目は争うこと。2つ目は懲戒解雇される前に辞めること。STAP細胞を再現できず争うことは出来ない以上,小保方さんは辞めるしかなかった。 
④ 理研は,退職届を受理せずに,懲戒解雇を行うということも出来た。しかし,理研はそうせずに退職を承認した。これに対しては,「懲戒処分の結論を出す前に退職を認めるのはおかしい」との批判も出ている。理研の温情的措置といえる。 


1 捏造(再現性なし)は重く処分されるの?

では,データをでっちあげ再現性のない論文を発表するなどの捏造はどうでしょうか?

裁判例

比較的最近の裁判例では,東大元教授の多比良和誠氏が発表した論文が「再現性、信頼性はない」として懲戒解雇された事案で,「本件各論文は、いずれも再現性がないものであり、これらは科学学術論文であるから、これらを東京大学の教授である多比良が責任著者として作成、発表 をしたことによって、東京大学の名誉や信用が著しく傷つけられたことは明らかである」として東大の懲戒解雇を有効と判断しました(東京地裁平成21年1月29日判決 第二審も結論維持 上告)。

要は,捏造なんかやったら,所属機関の信用丸潰れ,ということです。

公表されている過去の処分事例

また,新聞などで公表されている大学等の研究機関における論文捏造事案における処分が以下のとおりです。※1

処分 件数(総数33件)
懲戒解雇 13
諭旨退職  1
除名  1
立証不能,処分なし  3
自主退職  1
論文撤回のみ  4
停職  3
訓告  2
学位取消  3
調査中  1
引責辞任  1

 

これを見ると,論文の捏造は,盗用・剽窃以上に解雇・退職を含む重い処分がなされているのが分かります。

 

2 小保方さんはどうして退職したの?

(1) 懲戒解雇を回避する方法

まず,懲戒解雇を回避する方法は一般に2つあります。

① 懲戒解雇を争うこと!
② 懲戒解雇がなされる前に自ら辞めること!

です。

(2) ①懲戒解雇を争う方法

懲戒解雇は,普通解雇に比べて極めて厳格な要件の下その有効性が判断されます。たとえ就業規則の懲戒解雇事由に形式的には該当したとしても,具体的事情のもとで使用者の懲戒権の行使が客観的に合理的理由を欠いており,社会通念上相当として是認することが出来ない場合には権利濫用として無効とされるのです(労働契約法15条,同法16条)。

しかし,
今回,論文の盗用・改竄問題に加え,そもそもSTAP細胞が再現出来なかったという致命的な問題がありますので,懲戒解雇のハードルがいくら高いといっても懲戒解雇を争うことは難しいでしょう。

(3) ②懲戒解雇される前に辞める方法

懲戒解雇は,雇用契約が存続していることを前提に行えるものです。つまり,退職して雇用契約が消滅した後は行えません。

そこで,懲戒解雇をされる前に辞める,という当たり前の方法があるのです。

ただし,退職願いが出されていても、すぐに退職の効力が当然に発生する訳ではありません。
民法第627条によって、特約がない限り①原則として2週間を経過したとき、②月給者の場合には、賃金計算期間の前半に申し入れたとき、次期の初日をもって雇用契約は終了することになります。

つまり,理研は,退職を承認せず、懲戒解雇をすることも可能だったのです。

今回,理研は小保方さんの退職を承認しました。

これに対しては,「理研は懲戒処分の結論を出す前に退職を承認すべきではなかった。真相解明及び懲戒処分を実施しないと再発防止にならない」との批判もありえます。

結局は,小保方さんの将来を考慮しての温情措置なのだと思います。




【参考サイト】
・ 懲戒解雇とは?
・ 退職届けを提出した後に懲戒解雇することはできるか?
 ・   解雇で弁護士に相談したい場合なら





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